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博物館セミナー「⑦福井地震と地殻変動-福井平野周辺の活断層と地形形成について考える-」

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博物館セミナー「⑦福井地震と地殻変動-福井平野周辺の活断層と地形形成について考える-」のイメージ
日時
12月8日㈰ 13時00分~14時30分
内容
山はどうやってできたのでしょうか?その答えの一つを福井地震の時の地殻変動から探します。
講師
福井大学地域教育科学部教授 山本博文 先生
場所
当館研修室
対象
一般
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講演要旨

福井地震と地殻変動 -福井平野周辺の活断層と地形形成について考える

山本博文(福井大学教育地域科学部)

『動かざること山の如し』とたとえられるように,山は動かない(変化しない)ものの代表のように考えられてきました。しかし南アルプスの山々は深い海の底で堆積した化石を含む泥岩や砂岩からできていますし,世界最高峰のチョモランマ(エベレスト)でもアンモナイト等の海の化石が知られていることからわかるように,山は不動のものというわけではありません。普段全く変化していないように見える山や大地でも,何百万年,何億年という長い目で見ると,大きく変化してきているのです。

私たちは普段,山や大地が動くことを目にする事はまずありません。しかし1995年の兵庫県南部地震や1948年の福井地震の時,大地がずれ,山が成長したことを見ることができました。そこで今回のセミナーでは,福井平野を例として,大地が動き,山や平野ができていくことを紹介したいと思います。


図1.福井平野の地形区分と福井地震断層,福井東側地震断層(吉川,1996に加筆)

 福井県の北部に位置する沈降性のくぼみである福井平野は,東西10~16km,南北27km,面積約156km2の低平な沖積平野*1です。福井平野のおもな河川としては,東部の山地から流れ込む竹田川,九頭竜川,足羽川があり,平野東部に扇状地*2を形成しています。また福井平野南側の武生盆地からは日野川が流れ込んでいます(図1)。

福井平野は,三浦(1992)等によれば縄文早期から前期にかけては,その大半が古九頭竜湾と呼ばれる浅い入り江となっていました。縄文中期~後期になり,海面が低下するとともに,九頭竜川,日野川,足羽川などの河川によって運ばれた土砂が内湾に厚く堆積し,古九頭竜湾は縮小,海から切り離され,縄文後期までには今の平野の原型が形成されたとされています。

1948年6月28日,福井平野直下を震源とするマグニチュード7.1の福井地震が発生し,福井平野の広い範囲で家屋の倒壊率が60%を超える被害が発生しました。この地震の際,福井平野には無数の地割れができましたが,兵庫県南部地震の時,淡路島北部に見られたような明瞭な地震断層*3は現れませんでした(春江町定重では約1mのあぜ道の左横ずれが写真に記録されている:春江町 野坂氏による)。地震直後に現地調査を行った小笠原(1949)は,地割れ,噴砂等から平野中央部の地下に「深部断裂」(福井地震断層)の存在を推定し,Tsuya(1950)は測量結果から,この地震断層に沿って最大で水平方向に約2mの左横ずれ*4,鉛直方向に約0.7mの東側隆起の変位があったことを明らかにしました。また福井地震断層の東側にもこれと平行に東側隆起の福井東側地震断層が推定されました。

福井平野の形成には以上のような断層活動が河川による埋積作用とともに大きく関与していると考えられます。そこで断層活動が福井平野の地形にどのような影響を与えているか,扇状地,氾濫原等の地形から見ていきたいと思います。

鳴鹿橋付近に扇頂をもつ九頭竜川扇状地は,扇端部付近で福井地震断層が,扇央部で福井東側地震断層が横切っています。これらの西落ちの断層が活動すれば,扇央から扇端部にかけて低くなり,平野下に埋もれてしまうとともに,扇状の形が変形すると思われます。扇状地は一般に扇頂を中心に同心円状の等高線を描いており,その傾斜はほぼ一定であるとされています。福井地震断層が通る丸岡町北横地から福井市林町においては,等高線の間隔が周囲に比べてやや狭くなっており,同心円状を描くはずの等高線も東側にずれ,直線状ないしやや東へくぼんだ形状をしています。同様に福井東側地震断層が通る松岡町末政から丸岡町坪ノ内にかけても等高線の変形が認められます。

一方,福井平野の河川系を見ると,竹田川,田島川,兵庫川等の西流してきた小河川が地震断層に沿って屈曲,直線状に並んでおり,断層が現在の地形に何らかの変位を与えていると推定されます。また大河川である九頭竜川,日野川,足羽川は平野の西の縁に沿って流れている事も特徴です。

ボーリングデータや地震探査から明らかとなった福井平野の基盤の形状は,データが少なく,不明な点も多いのですが,平野北半部では西に向かって徐々に基盤深度が深くなっています。南半部においては,一部では足羽山のように基盤岩が露出し,一部では-100m以深を示すなど,凹凸が大きいと推測されます。また足羽山北側から松岡にかけての線を境として,その北側で基盤深度が急激に深くなる事もわかってきました。

以上の平野の地形,基盤深度分布等から,福井平野北部は全体としては西に傾きながら沈降していると推察されます。平野西縁部では基盤深度が急激に深くなっており,小林ほか(2001)が重力データより指摘しているように,西縁を区切る断層が推定されますが,これまでの調査ではその存在は確かめられていません。また東北東-西南西方向に延びる断層も知られており,福井平野周辺地域はこれらの断層によってブロック化していると思われます。しかし平野深部のデータは少なく,今後,文部科学省交付金による「堆積平野地下構造調査」を,福井平野においてもぜひ行う必要があると思われます。

引用文献
小林直城・平松良浩・河野芳輝・竹内文朗(2001)重力異常による福井平野の3次元基盤構造の推定-福井地震およびその周辺の活断層との関係-.地震 第2輯,vol.54,p.1-8.
三浦 静(1992)福井平野と若狭地方の平野.アーバンクボタ,no.31,p.56-59.
小笠原義勝(1949)福井地震の被害と地変.地理調査時報,特報2,p.1-13.
Tsuya, H. (1950) The Fukui Earthquake of June 28, 1948. Rept. Spec. Comm. Fukui Earthq., p.1-197.
吉川博輔(1996)福井地震被害と地形環境-木造家屋全壊率からの分析-.自然と社会-北陸-,no.62,p.34-41.

*1 沖積平野:河川の堆積作用でつくられ,現在までその作用が続いているような新しい平野。
*2 扇状地:河川が形成した,谷口を頂とする扇状に開く半円錐形の堆積地形。扇状地の扇のかなめにあたるところを扇頂,中央部を扇央,末端を扇端と称する。
*3 地震断層:地震にともなって地表に現れた断層。
*4 左横ずれ:断層を挟んで相手側のブロックが左側にずれる断層変位。

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