■今年も始まる!先発隊からの調査レポート

タイ側職員との打ち合わせ

2007年から始まった3ヶ年の日本・タイ共同恐竜発掘調査も今年で最後になります。今年も11月5日からタイ王国ナコーン・ラチャシーマ県ムアング区スラナリ地区において始まりました。今年もタイから発掘の様子をお知らせしていきます。

今年は、恐竜博物館からは、東洋一(館長)、野田芳和(主任研究員)、小島啓市(主任)、矢部淳(研究員)、柴田正輝(研究員)が参加しています。さらに、岡山大学大学院生の湯川弘一氏が参加しています。タイ側からは、今年もタイ王国・珪化木鉱物資源博物館のジンタサクル館長他9名の職員と多くの現地作業員が参加しています。小島、矢部、湯川氏が11月5日に先に現地入りし、11月16日の東、野田、柴田の到着まで、先発隊として調査を担当します。

現地到着後まず今年の発掘についてタイ側の職員と打合せを行いました。用地交渉や作業員の確保、準備物については、タイ側が既に済ませており、発掘場所や発掘方法について念入りに打合せを行いました。発掘は3年目になりますので、タイ側の職員とも気心が知れており、冗談を言い合うなどなごやかな雰囲気です。

打合せの後、発掘現場の確認を行いました。場所は2007年度に行った場所の隣です。ターゲットとする地層が厚く、恐竜化石が多いと予想されています。この時は一面とうもろこし畑になっていましたが、この畑を借りて発掘を行います。岩を掘る場所、ハンマー隊が作業する場所、テントを張る場所などについて確認していきます。

現場は一面のとうもろこし畑
整地をし表土をはいでいきます。

翌日、再度現場の確認に行ったところ、見事にとうもろこしが刈り取られ、平らになっているではありませんか!重機を操作するオペレーターは、おととしの発掘に参加してくれたペジュイさんで、発掘のイメージができているので、こちらの要望どおりにうまく整地してくれました。今年の発掘面積は約300㎡に決めています。早速、表土をはがして恐竜化石が眠っている「島」を出していきます。表土は薄く数十cm取り除くと、硬い岩のかたまりである「島」が現れてきます。

11月7日、「島」の表面は露出しましたが、その間にある溝の土は、手作業で排出していかなければなりません。作業員と一緒に鍬やスコップを使って人海戦術で島全体を露出させていきます。すべての「島」を露出させるのに4日間かかりました。

人海戦術で泥を排出していきます。
今日はカニチャーハン

季節は冬といっても、タイの冬は日差しが強く、雲がないと炎天下でのかなりきつい作業になります。その中で、一番の楽しみは休憩時間の昼食です。日本でいうチャーハンや麺類が主ですが、疲れた身体には辛い味はいいものです。

雨がやむまでは待機になります。

11月10日、「島」を露出させる作業中の突然の雨。乾季に入っているようですが、タイでも今年の冬は天気も不安定とのこと、夕立のような雨では作業ができず、降り止むまで作業は中止になります。雨が降ると、しみ込んだ雨が「島」の溝にたまります。泥が粘土質のため、鍬やスコップにねっとりとこびりつき、かなりの重さ。腰が悲鳴を上げます。

溝の間に水がたまってしまいました。
狭いすき間の泥をかき出すのは一苦労

11月11日、なんとか、すべての「島」の露出作業が終わりました。島の表面には骨化石が飛び出ているところもあり、成果に期待が持てます。さて次は、それぞれの「島」に記号付けをして形をマッピング(測量)です。測量機器トランシットの到着までは、メジャーとコンパスを使います。

「島」の形を正確に計測します。

マッピングを終えた「島」から順に、岩を割って化石を見つけていきます。まず重機や発破で大割りするのですが、それをタイ独自の「竹ハンマー」で小割りにしていきます。この「竹ハンマー」は柄が細い竹で、かなりしなるため威力は絶大です。ただ、ハンマーの鉄部分がかなり重く、誰にも扱えるというものではないので、竹ハンマー専門の作業員に任せます。作業員は、筋肉隆々で疲れ知らず、あっという間に細かくなっていきます。単に力任せというわけではなく、岩の性質をしっかり見極めて割っており、恐るべしです。岩の層理面にそってパックリ割ると、大きな骨化石が現れることも多く、そのたびに歓声が上がります。

竹ハンマー隊
層理面で割れると大きな化石が

ハンマー隊

 小割りされた岩は、福井での発掘同様、「ハンマー隊」がさらに細かくして化石を見つけていきます。このハンマー隊の作業員も毎年参加しているので、岩を割る手つきも手慣れたものです。化石かどうかを見る目もできていて、一生懸命に岩を割る姿は頼もしい限りです。作業員とは、言葉は通じなくても、日が経つにつれて、タイ語の単語と身振り手振りでコミュニケーションがとれていきます。タイの人は、みんな笑顔で話をします。「微笑みの国タイ」のキャッチコピーは確かです。このような明るいタイの人たちと12月下旬まで、今までにない大きな発見を目指して作業にあたっています。

獣脚類の歯
うんこの化石も見つかります。

(小島 啓市)