恐竜皮膚痕化石の発見について
2006年10月10日㈫、かつやま恐竜の森(勝山市長尾山総合公園)内の「どきどき恐竜発掘ランド」(勝山市)にて、化石発掘体験用として採取された手取層群上部の赤岩亜層群・北谷層(約1億2000万年前)の岩石の中に、化石のようなものがあると山内里香・園長より連絡を受けた。その後、恐竜博物館職員がその岩石の調査研究を進め、今回、国内では初めてとなる恐竜の体を覆う皮膚痕化石であることを確認した。
皮膚痕化石について
皮膚痕化石が残されている岩石は幅約23cm、長さ約24cm、高さ約7cmの大きさの細粒砂岩で、皮膚痕はその表面の約60%に保存されている。皮膚痕化石は、径約3~5mmの多角形ないしほぼ円形状の突起(鱗の痕)が多数集ったものである。岩石の構造を調べた結果、湿った地面に恐竜が皮膚の痕をつけ、細かい砂がそのくぼみを覆い、最終的にその型が化石として保存されたと考えられる。なお、今回の皮膚痕は恐竜の足の裏の皮膚痕ではなく、恐らく体を広く覆う皮膚からのものと思われる。これまで報告されている恐竜の皮膚痕化石との比較では、ハドロサウルス類(植物食恐竜)であるエドモントサウルスやパラサウロロフスの四肢に見られるものに類似するが、今回のものは骨の化石に伴って発見された皮膚痕化石ではないため、その詳しい種類の特定は困難と思われる。
今回発見された皮膚痕が付いている岩石
皮膚痕の図(左)と、図の枠内の拡大写真(右)
意義
恐竜の外観に関する資料は、皮膚痕化石が最初に発見された1852年以降、稀ではあるが世界中からの報告がある。特殊なものにはほぼ全身がミイラ化した恐竜(1908年)や、全身に羽毛が生えた恐竜(1996年)の化石などがある。特にアジアからはモンゴルのサウロロフス(鳥脚類)や、中国自貢市のトゥオジャンゴサウルス(剣竜)、マメンチサウルス(竜脚類)などの報告がある。
今回のものは、国内で初めて発見された恐竜の体を覆う皮膚痕化石である。ちなみに、1991年8月、勝山市北谷の恐竜化石発掘現場に露出する手取層群・北谷層から発見された鳥脚類の足跡に鱗の痕が残されていたものがある(1995年4月27日新聞発表)。
参考
手取層群(てとりそうぐん)
手取層群は北陸一帯に分布しているジュラ紀中期~白亜紀前期の地層。手取層群は下位から九頭竜亜層群、石徹白亜層群、赤岩亜層群に分けられる。地層が形成された頃、北陸一帯はアジア大陸の一部であり、地層は浅海、河口などの汽水域、川や湖などの淡水域で形成された。手取層群は約1億6500万年前~約1億2000万年前のもので、赤岩亜層群の北谷層は約1億2000万年前の淡水域で形成された。
勝山市北谷の恐竜化石発掘調査
福井県は1989年より5年間、「福井県恐竜化石調査事業」として、恐竜化石の発掘調査を行った。発掘現場は福井県勝山市北谷で、北谷層とよばれる地層が分布する。調査によりフクイサウルスをはじめとした恐竜化石や足跡化石が発見された。引き続く、第二次恐竜化石発掘調査(1996~1998年)では、フクイラプトルの肢や腕の骨、恐竜の卵化石の発見などがある。
1982年 (昭和57年) |
勝山市北谷でワニ全身骨格発見、採集 |
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1988年 (昭和63年) |
同地で予備調査実施。小型肉食恐竜の歯を発見 |
1989~1992年 (平成元~4年)年 |
第1次福井県恐竜化石発掘実施 |
1992年 (平成4年) |
主に恐竜足跡面を発掘し、連続歩行を確認 |
1994年 (平成6年) |
勝山産イグアノドン類(フクイサウルス)の全身骨格を復元 |
1996~1998年 (平成8~10年) |
第2次福井県恐竜化石発掘実施 |
1996年 (平成8年) |
イグアノドン類の追加標本、肉食恐竜の骨格を発見 |
1998年 (平成10年) |
恐竜の卵殻化石を発見 |
2000年 (平成12年) |
獣脚類フクイラプトルの骨格を復元 |
2001年 (平成13年) |
勝山市北谷で予備調査を実施 |
2007年 (平成19年) |
第3次福井県恐竜化石発掘実施予定 |
勝山産の恐竜化石
勝山市北谷の白亜紀前期の北谷層から多くの恐竜の骨や歯、足跡、卵の殻の化石が発見されている。代表的なのはカルノサウルス類(肉食恐竜)に属するフクイラプトル・キタダニエンシス、イグアノドン類(植物食恐竜)のフクイサウルス・テトリエンシス、竜脚類(首と尾が長い四足恐竜)の歯の化石などがある。最近ではフクイラプトルの幼体の化石なども見つかっている。