2009年度 第三次恐竜化石調査産出化石報告
2007年から2009年に実施した第三次恐竜化石発掘調査において発見された化石について、クリーニング作業により明らかになった内容、およびタイ・中国海外調査を報告いたします。
新ドロマエオサウルス類の全身骨格復元について
小型獣脚類の化石は、第三次恐竜化石調査期間中の2007年8月21日に、竜脚類化石を発見した地層から約1.5m上部の細粒砂岩層から産出した。
また、これらの化石は約50cm×40cmと約50cm×55cmの一対の岩石およびその周辺の岩隗に含まれていた。
その後、約2カ年にわたってクリーニングを進めた結果、上顎骨や脳函などの頭骨や脊椎骨、前肢、後肢など約160点の骨が明らかになった。これらはドロマエオサウルス類と考えられる獣脚類の同一個体の骨化石がまとまっていることが分かった。
2009年度はこれらの全身骨格復元の作業を進めてきた。
- 発見部位
- 上前顎骨、上顎骨、涙骨、脳函、歯骨(以上頭骨)、頸椎、胴椎、仙椎、尾椎、肋骨、血道弓、肩甲骨。烏口骨、上腕骨、尺骨、撓骨、指骨、座骨、大腿骨、脛骨、腓骨、距骨、中足骨、趾骨、末節骨など
- 体長
- 2m30cm
意義
ドロマエオサウルス類の全身骨格復元は、我が国では初めてである(獣脚類としてフクイラプトルに次いで2例目)。約160点の骨が確認され、全身骨格の約64%にあたり、骨格復元がかなり正確に行われたものと思われる。
復元された後肢に対する前肢の比率は約78%であり、バンビラプトルやシノルニトサウルスの約80%に匹敵するものであることがわかった。また、発見された上前顎骨、上顎骨、歯骨に残されている歯にはいずれも肉食恐竜特有の鋸歯がみられない。
現在、研究継続中であるが今のところバンビラプトルやシノルニトサウルスに近い新しい種類のドロマエオサウルス類と考えられ、全身に羽毛をもっていたものと考えられる。
今後は、学術雑誌に掲載し、年内を目標に学名をつけていきたい。
第三次恐竜化石調査
概要
2007年度から開始した第三次恐竜化石調査では、大型植物食恐竜である竜脚類の腕や脚の骨、本邦初となる新しいドロマエオサウルス類の全身の骨化石、イグアノドン類の小型のアゴなど、日本の恐竜進化を考える上で非常に重要な発見が相次いでいる。そして昨年度からは、1989年から行われた第1次・第2次発掘調査でフクイサウルス、フクイラプトルを産出した骨化石層を集中的に発掘調査し、それら2種類の恐竜の追加標本の発見と新しい恐竜の発見を目指している。
2009年度の調査では、フクイサウルスの右歯骨(下あごの骨)やイグアノドン類の尾椎、獣脚類の歯や大腿骨などや種類不明の卵化石を発見した。また、骨化石層より上位に足跡化石層が2層準あることを確認した。
- 調査期間
- 2009年7月6日から9月12日まで(68日間)
- 調査地
- 勝山市北谷町杉山 恐竜化石発掘現場
- 地層
- 手取層群北谷層(白亜紀前期、約1億2000万年前)
- 調査面積
- 約200㎡
- 参加人数
- 延べ 約900名
(福井県立恐竜博物館職員、県内外恐竜化石研究者、地質学系大学生・大学院生) - 化石点数
- 脊椎動物化石 約1200点
発見された主な化石(単位cm)
- 鳥脚類:フクイサウルスの右歯骨(21.5×6)
- 獣脚類:歯(3.5×0.7~3.3×1.8)、頸椎(3.3×3.3)、胴椎(2×3.4)、尾椎(3×2、4×1.7)、指骨(7×1.7)、大腿骨(15.3×1.5)、脛骨(3.3×1.5、12.5×2.7)、中足骨11.5×0.5)、末節骨(4.1×1.5)
- 竜脚類:歯(2×0.5)
- 卵化石:半球状(2×2)
- 足跡化石層:①約15㎡(約40個)、②約100㎡(約10個)
意義
今年度の調査では、以前の発掘調査で発見されていたフクイサウルスの左歯骨とほぼ同じ大きさの右歯骨が発見された。現段階で同一個体と結論づけることは困難であるが、同一サイズのフクイサウルスの追加標本が発見されたことで、他の部位の発見も十分期待できる。
加えて、まだ多くの部位が未発見であるフクイラプトルの頭部を発見できる可能性が十分にあることが確認できた。
また、今回発見された獣脚類化石は、保存状態の良好なものが多く、フクイラプトルや新しいドロマエオサウルス類と今後比較し、個体差や種類の違いを検討することができる。
2009年度第三次恐竜化石調査で発見された恐竜化石(一部)
海外恐竜化石共同発掘調査(タイ)について
概要
2009年度は昨年度に引き続き、スラナリ地区においてタイ王国ナコーン・ラチャシーマ ラジャパット大学付属の珪化木鉱物資源博物館と共同発掘調査を行った。
本調査は2007年度から4年計画(発掘調査3年間、クリーニング作業1年間)で始まり、本年度が現場での発掘調査の最終年である。昨年度までの調査で、獣脚類やイグアノドン類の頭骨の一部などが発見された。
本年度は11~12月の約2ヶ月間、発掘調査をおこない、新たな追加標本を発見することができた。
- 調査期間
- 2009年11月2日から12月28日まで(57日間)
- 調査地
- タイ王国ナコーン・ラチャシーマ県ムアング区スラナリ地区
- 地層
- コラート層群 コク・クルアト層
- 参加機関
- 福井県立恐竜博物館、珪化木鉱物資源博物館(タイ)
- 化石点数
- 脊椎動物化石 約1000点
発見された主な化石
獣脚類の顎骨、恐竜類の脳函(?)、イグアノドン類の烏口骨など
意義
本調査地域に分布する白亜紀前期の地層、コク・クルアト層からは、我々の調査以前から恐竜化石の存在は知られていた。しかし、骨化石の産出状態があまり良くなく、岩石が非常に硬いことから学術的な発掘調査は行われていなかった。
今回、タイの珪化木鉱物資源博物館と共同で発掘調査をおこなったことにより、本地層が恐竜化石を豊富に含む重要な地層であることを確認し、同時に、本現場における学術的調査方法を確立することができた。
また、本調査では獣脚類やイグアノドン類の頭骨の一部をはじめ、本地層から初めてとなる部位を発見した。今後のクリーニング作業と研究の進行により、これらの恐竜の意義を明らかにしていきたい。
2009年度海外恐竜化石共同発掘調査(タイ)で発掘された主な化石
海外恐竜化石共同発掘調査(中国)について
概要
調査を行った山西省大同市天鎮県に分布する白亜紀後期の地層(灰泉堡層)は、新しい種類の恐竜化石の発見が期待される。
恐竜博物館と中国の諸機関からなるチームは4か所の発掘サイトにて複数個体のヨロイ竜の化石や、オルニトミモサウルス類と考えられる中型の獣脚類の化石、また別種の獣脚類の歯や骨、哺乳類と考えられる歯などを発掘した。発掘は現在も続けられており、産出化石のクリーニングも進められている。
正確な化石の総点数は不明だが、少なくとも300点を超え、東アジアの白亜紀後期の恐竜について新知見が得られると期待される。
- 調査期間
- 2009年6月4日から6月28日まで
- 調査地
- 中国山西省大同市天鎮県
- 地層
- 灰泉堡層(フェイチェヤンバォそう)白亜紀後期
- 参加機関
- 福井県立恐竜博物館、浙江自然博物館、中国地質科学院地質研究所、大同市博物館
発見された主な化石
- アンキロサウルス類:頭骨、歯、脊椎骨、坐骨、大腿骨、尾椎など
- オルニトミモサウルス類(獣脚類)と考えられるまとまった化石:関節した尾椎を含む数多くの脊椎骨、血道弓、指骨など
- 遊離した獣脚類の歯や哺乳類と考えられる歯、淡水性の二枚貝など
意義
灰泉堡層からは、1998年に新属新種のアンキロサウルス類(ティアンジェノサウルス・ヤングイ:Tianzhenosaurus youngi)、2000年に新属新種の竜脚類(フュアベイサウルス・アロコタスHuabeisaurus allocotus)が報告されているが、他は獣脚類やハドロサウルス科(鳥脚類)の断片的な化石が知られるのみで、未だ恐竜相の全容解明には至っていない。
今回の調査で、複数個体分のヨロイ竜の化石や、オルニトミモサウルス類と思われるまとまった化石などが得られ、これらは新種の恐竜である可能性が高い。詳細は化石クリーニング作業の結果を待つことになるが、東アジアの白亜紀後期の恐竜について重要な資料となる。