日本最古のサイ上科化石について

2014年6月23日

日本最古のサイ上科化石について

サイのなかま(奇蹄目・サイ上科)としては日本最古の化石が、福岡県宗像市から発見されたことを報告します。化石は4500万年以前(恐らく4800万年前ごろ)のヒラキウス属(Hyrachyus)と見られ、アジアにおいても最古級のサイ上科の化石となります。化石は2014年6月24日㈫から展示公開され、6月28日㈯の日本古生物学会において発表されます(下記参照)。

サイ上科の化石は、別種類の大型哺乳類化石(下記参照;1992年発見の宗像市産大型哺乳類化石)を含む、同じ岩石から見つかりました。1992年に宗像市吉留の大焼層 おおやけそう から発見された汎歯目・コリフォドン科の化石を、福井県立恐竜博物館の宮田和周 かずのり 主任研究員と、化石を所蔵する北九州市立自然史・歴史博物館が共同研究を2010年より進め、2011年からの剖出作業(化石周囲の岩石を取り除く作業)中にヒラキウスの化石を発見しました。

化石はほぼ完全な歯列を伴う下顎骨(左歯骨および右歯骨前方部)と右踵骨 しょうこつ 、肋骨の一部、大腿骨とみられる長骨が含まれます。化石の剖出作業が完了していないため、全ての部位は未だ明らかではありませんが、下顎骨の大きさ(長さ23.4cm)から推定される体長は150cm、背の高さは75cmほどです。化石を産した大焼層は約4500万年前よりも古いことが判明していますが、共産したコリフォドン科の化石の特徴から、中期始新世の初めごろ(約4800万年前)の可能性があります。これまでの国内最古のサイ上科化石は、福岡県嘉麻市鴨生の上石層 うわいしそう から産出した属種不明の歯の化石(約4500万年前)でした。

ヒラキウスは、サイ上科の初期の原始的な絶滅属であり、前期始新世後期から中期始新世の中ごろ(約5200~約4300万年前)の北半球に分布していました。ヒラコドン科というサイ上科の絶滅グループに属すると考える研究者や、原始的がゆえにサイ上科ではなく、バク上科のなかまではないかと考える研究者もいます。北米(カナダ・アメリカ合衆国)、中米ジャマイカ、アジア(中国・インド北部)、ヨーロッパに化石記録があり、特にアメリカ合衆国とドイツでは全身の様子が分かる化石が見つかっています。今回の化石はアジアのなかで非常に保存の良い化石です。アジアでは7種の固有種が識別されていますが、数十点の断片的な歯や顎の一部から知られています。ヒラキウスに似たサイ上科化石は、モンゴル、パキスタン、日本(兵庫県三田市:約3800万年前/2007年発表)からも知られています。

福岡県宗像市産出のサイ上科(ヒラキウス)の化石

福岡県宗像市産出のサイ上科(ヒラキウス)の化石
右踵骨(上)と下顎骨(下)。肋骨の一部が下顎骨に付着。

ヒラキウスの復元画像(イラスト提供:山本 匠)

ヒラキウスの復元画像(イラスト提供:山本 匠)
頭部に角はなく、現在のサイとは異なるスマートな体つきをしていた。

学会発表

日本古生物学会 2014年年会〔開催期間:2014年6月27日㈮~29日㈰〕

発表の日時
2014年6月28日㈯午後1時~2時(ポスター発表)
場所
九州大学総合研究博物館3F 第一会議室
演題/発表者
「日本最古の始新世サイ上科(奇蹄類)化石」/宮田和周(福井県立恐竜博物館)・岡崎美彦(元北九州市立自然史・歴史博物館)・酒井治孝(京都大学大学院理学研究科)・大橋智之(北九州市立自然史・歴史博物館)・冨田幸光(国立科学博物館)

展示公開

北九州市立自然史・歴史博物館 2014年6月24日より9月23日まで。博物館入口にて実物化石を展示。
福井県立恐竜博物館 2014年6月24日より9月23日まで。2F生命の歴史にて複製を展示。

参考

サイ上科

奇蹄類(サイ、バク、ウマなど)の1大グループ。現在のサイが含まれるサイ科以外に、アミノドン科やヒラコドン科などの絶滅したグループが含まれる。日本最古のサイ科化石は約1800万年前の長崎県松浦市や岐阜県可児市で知られる。近年では、兵庫県三田市の約3800万年前の地層からザイサンアミノドン(アミノドン科)とヒラキウス近似属種(cf.Hyrachyus sp.)が報告されている。北米(アメリカ合衆国)とヨーロッパでは約5200万年前からサイ上科の記録(ヒラキウス)がある。アジア(中国)では約5400万年前と推定される化石(パタエコプス)がサイ上科のものか分類上疑問とされているが、この点を除けばアジア最古のサイ上科はヒラキウスで、北米とヨーロッパで出現(約5200万年前)したころには、アジアにいただろうと考えられている。アジアのヒラキウスの化石の年代はよく分かっていない。

1992年発見の宗像市産大型哺乳類化石

1992年4月29日、九州大学助教授(当時)の酒井治孝氏(現:京都大学教授)、北九州自然史友の会(当時)会員の加島昭二氏と松井正雄氏が、福岡県宗像市吉留の大焼層から、大型哺乳類の骨や歯の化石を発見し、採集が行われた。また同地点から、北九州市立自然史博物館学芸員(当時)の岡崎美彦氏、および北九州市自然史友の会(当時)の亀井俊幸氏によって追加の化石も採集された。これらの化石は国立科学博物館の冨田幸光氏によって、大型絶滅草食獣である汎歯目コリフォドン科の化石と鑑定され、1993年3月6日に報道された。
(現在、北九州自然史友の会は北九州市立自然史・歴史博物館自然史友の会に、北九州市立自然史博物館は北九州市立自然史・歴史博物館に名称を変更している。)


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