福岡県からの白亜紀前期の新種のカメ化石について
福井県立恐竜博物館では、恐竜化石研究の拠点化に向け、恐竜を中心とした古生物やその背景となる地球の歴史を対象として調査研究活動を行っています。
このたび、当館の薗田哲平主事が早稲田大学等との共同研究で、福岡県宮若市から発見された白亜紀前期のカメ化石の論文を公表し、新種として認められました。
化石の概要
- 学名
- アドクス・センゴクエンシス Adocus sengokuensis(「千石峡のアドクス」の意。)
- 産地
- 福岡県宮若市千石峡 関門層群千石層(白亜紀前期、およそ1億2千万年前)
- 共同研究者
- 薗田哲平(福井県立恐竜博物館主事)
平山 廉(早稲田大学国際教養学部教授)
岡崎美彦(北九州市立自然史・歴史博物館名誉館員)
安藤寿男(茨城大学理学部教授) - 論文
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- 題名:
- A new species of the genus Adocus
(Adocidae, Testudines) from the Lower Cretaceous of Southwest
Japan.
[西南日本の下部白亜系より産出したアドクス属(アドクス科,カメ目)の新種] - 掲載誌:
- Paleontological Research, vol.19, No.1, pp.26-32.(日本古生物学会欧文誌、2015年1月号)
福岡県からの白亜紀前期の新種のカメ化石について
福岡県宮若市から発見された中生代白亜紀前期のカメ化石が、研究の結果、アドクス属として世界最古の新種であることが判明しました。新種名「アドクス・センゴクエンシス(Adocus sengokuensis)」は「千石峡のアドクス」を意味し、日本古生物学会欧文誌「Paleontological Research」の2015年1月号に論文が掲載されました。なお、化石は2015年1月22日から一般公開します(下記参照)。
化石は、背中側(頚板、左第2肋板、左第1縁板、右第1縁板、左第4縁板)および腹側(左上腹甲、右下腹甲)の計7点の甲羅パーツからなる同一個体の化石です。背中側の頚板および第4縁板に、アドクス属のどの種にもない特徴をもつことから、新種と判明しました。推定される甲羅の前後長は約29cmであり、アドクス属の中では最小の種となります。化石の見つかった福岡県宮若市宮田の関門層群千石層は、白亜紀前期の後半(約1億2000万~1億1000万年前)の地層と考えられています。このカメ化石は、北九州市教育委員会(当時)の佐藤政弘氏によって、1994年に発見されたもので、北九州市立自然史・歴史博物館に収蔵されていました。数年前より恐竜博物館研究員の薗田哲平主事らが共同研究を進めてきました。
アドクス属は、中生代白亜紀前期から新生代始新世後期(約1億2500万~約3400万年前)にかけて、アジアと北米に生息していた原始的な絶滅したスッポンの仲間(スッポン上科)です。現在のスッポンのように甲羅表面が皮膚状に柔らかく、全体に扁平な形ではなく、イシガメやクサガメのような一般的なカメ類と同様に甲羅は角質の鱗で覆われていました。化石は中央アジア(タジキスタン・ウズベキスタン・キルギス)、モンゴル、カナダ、アメリカからも産出しており、日本では福岡県の他に鹿児島県、熊本県、福井県、石川県、岐阜県、岩手県、北海道で広く見つかっています。これらの多くは白亜紀後期のものであり、白亜紀前期の古い記録は、世界の中で福岡県、石川県および福井県のみになります。これまで見つかっているアドクス属とそれに近縁なカメ類との比較から、アドクス・センゴクエンシスに見られる頚鱗の形態や小さな甲羅サイズは、この系統のカメ類における原始的な特徴を示していると考えられます。今後、スッポン上科のカメ類の進化や多様化を知るうえで重要な資料となります。
論文掲載
- 題名
- A new species of the genus Adocus (Adocidae, Testudines) from the Lower Cretaceous of Southwest Japan.(西南日本の下部白亜系より産出したアドクス属(アドクス科,カメ目)の新種)
- 著者
- 薗田哲平(福井県立恐竜博物館)・平山廉(早稲田大学国際教養学部)・岡崎美彦(元北九州市立自然史・歴史博物館)・安藤寿男(茨城大学理学部)
- 雑誌
- 日本古生物学会欧文誌「Paleontological Research」
- 巻号
- Vol.19, No.1, pp.26-32
- 発行
- 2015年1月1日
展示公開
北九州市立自然史・歴史博物館 | 2015年1月末頃より3月上旬まで。博物館入口で実物化石を展示。 |
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福井県立恐竜博物館 | 2015年1月22日より3月31日まで。博物館1階エントランスホールで複製を展示。 |
標本画像・参考復元画
福岡県宮若市産出のアドクス・センゴクエンシスの化石(ホロタイプ標本)
アドクス・センゴクエンシスの甲羅復元図に標本を重ね合わせた図。
甲羅の背側(左)と腹側(右)。図上の上方向が頭の出る前方になる。
アドクス・センゴクエンシスの生態復元画(画・おさとみ麻美)