山口県下関市産の国内初の種類の恐竜卵化石について

2017年6月5日

1965年(昭和40年)に山口県下関市で発見された化石が、福井県立恐竜博物館と福井県立大学恐竜学研究所および山口県美祢 みね 市化石館との共同調査により恐竜の卵化石であることが判明し、さらに、恐竜の卵化石としては国内で初めての種類であることが明らかになりました。なお、この化石は、2017年7月14日㈮から開催する本年度の当館の特別展「恐竜の卵 ~恐竜誕生に秘められた謎~」において、特別公開しますので、併せてお知らせします。

概要

山口県下関市から1965年(昭和40年)9月20日に清水好晴 よしはる 氏(現在、神奈川県横須賀市在住)と氏の友人によって「卵状化石」として採集され、2016年(平成28年)まで清水氏の自宅で保管されていた化石が、福井県立恐竜博物館(福井県勝山市)、福井県立大学恐竜学研究所(福井県吉田郡永平寺町)、美祢市化石館(山口県美祢市)の共同調査により、これまで国内で知られていない種類の恐竜の卵化石であることが明らかになりました。また、この化石が恐竜の卵化石であると確認されたことにより、1965年(昭和40年)には実質的に国内初の恐竜化石が発見されていたことになります。

産地と地層

山口県下関市綾羅木 あやらぎ 川上流流域

関門層群 かんもんそうぐん 下関亜層群 しものせきあそうぐん (白亜紀前期 約1億2000万~1億年前)

発見・確認の経緯

  1. 1965年(昭和40年)9月20日、清水好晴氏と友人により「卵状化石」が採集される。
  2. 1965年(昭和40年)9月22日、清水氏が自宅で標本の写真撮影とスケッチを残す。
  3. 1965年(昭和40年)以降、卵殻片8点を残し、清水氏が当時の下関市内の知人に鑑定のために半割の卵の形状をした標本1点を預けたが、同氏は40年前に他界され、預けられていた標本が行方不明となる。
  4. 2016年(平成28年)3月18日、清水氏が甥である山根謙二氏(美祢市文化財保護課主任)に本標本の鑑定を依頼。
  5. 2016年(平成28年)11月、山根氏が美祢市化石館と研究面で交流があった福井県立恐竜博物館の湯川弘一主事に連絡し、同館で本標本を予察的に鑑定、恐竜の卵化石である可能性が浮上した。
  6. 2016年(平成28年)12月、清水氏の案内で福井県立恐竜博物館、福井県立大学恐竜学研究所、美祢市化石館が共同現地調査を行った。また、清水氏から発見の経緯や、当時の写真やスケッチなどの追加情報提供があった。
  7. 2017年(平成29年)1月〜4月、福井県立恐竜博物館、及び福井県立大学恐竜学研究所にて本標本の組織を詳しく調べたところ、本標本が恐竜の卵であることが確認された。

なお、本標本の発見現場はすでに護岸工事により舗装されているが、現場一帯には関門層群下関亜層群(約1億2000万~1億年前、白亜紀前期)が広く分布しており、本標本も同亜層群から産出した可能性が非常に高いと判断される。また、清水氏が卵化石採集時に撮影したネガフィルムに、「竹原古墳」と読める看板があり、清水氏の高校生時代の小冊子から、氏が同古墳を訪れたのが1965年(昭和40年)9月19日であったことが判明した。なお、卵化石の採集は同年9月20日である。加えて、同ネガフィルムには「児童福祉施設 病児施設 山口県光林園」と読める看板もあり、これが1963〜1971年(昭和38~46年)まで存在していた光林園(現くすの園、下関市楠野)であることが、山口県下関南総合支援学校の情報提供により判明している。

卵化石の特徴

恐竜時代の卵化石は世界各地から報告されており、その種類は恐竜や鳥類のものを初め、カメ、ワニ、ヤモリなどと多様である。卵は動物の種類によって形状、大きさ、表面模様そして卵殻の内部構造などに違いがみられる。そして、付随する骨格化石が無い場合はこれらの違いを手がかりに、卵化石がどの様な生物に属するのかが判別される。今回、特に以下の4点の特徴により、本標本が恐竜の卵であることが確認された。

  • 卵殻が比較的厚い(約3.7mm)こと
  • 気孔網が非常に複雑なこと
  • 多くの恐竜の卵に見られる、小球恐竜状型の卵殻組織
  • 卵殻単位が卵の表面に向けて枝分かれし、時に他の卵殻単位と交わること

また、他の恐竜卵化石と予備的に比較したところ、本標本は獣脚類のものとされる卵化石と類似性が見られた。

下関市産化石の意義

本標本は、これまで国内で発見された恐竜のものとされる卵殻化石とは、厚さや気孔網、卵殻組織の点において異なり、本標本が国内でこれまで確認されていなかった種類の恐竜卵であると言える。特に本標本は、卵殻が厚いという特徴を持つことから、比較的大型の恐竜の卵である可能性がある。これまで関門層群脇野亜層群(福岡県)からは獣脚類の歯化石や角竜の歯化石が遊離した状態で発見されており、複数種類の恐竜が白亜紀前期の中国地方や北九州地方に生息していたことがわかっていた。今回の発見で、当時の中国地方では、ある種の恐竜が産卵を含む繁殖活動を行っていたことが新たに明らかになった。国内の恐竜の生態を復元するために貴重な標本であり、今後の更なる発掘調査により、巣や胚(孵化する前の個体)の発見も期待される。

なお、これまで国内においては、1978年(昭和53年)に発表された岩手県岩泉市産の竜脚類、モシリュウが日本初の恐竜化石だとされていた。本標本は骨格化石ではないものの、恐竜化石としてはモシリュウ発見の13年前に採集されており、国内でもっとも早く発見されていた恐竜化石となる。

標本画像

図1.卵殻化石標本計8点

図1.卵殻化石標本計8点(うち1点は薄片製作に利用)
画像提供:福井県立恐竜博物館

図2.卵殻化石標本の拡大

図2.卵殻化石標本の拡大(図1の下段中央のもの)
画像提供:福井県立恐竜博物館

図3.清水好晴氏により採集直後に撮影された標本写真

図3.清水好晴氏により採集直後に撮影された標本写真
画像提供:清水好晴氏

展示公開予定

本標本は、今年度7月14日から10月15日まで開催される、福井県立恐竜博物館特別展「恐竜の卵 ~恐竜誕生に秘められた謎~」にて特別公開される。


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