タイで発見された新属新種の大型肉食恐竜について
福井県立恐竜博物館とナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属珪化木鉱物資源東北調査研究所(通称:コラート化石博物館)の共同研究チームは、タイ王国における共同発掘調査で発見した化石が新属新種のカルカロドントサウルス類のものであることを突き止め、その成果を報告した学術論文が米国オンライン科学雑誌プロス・ワンに掲載されました。
発表の概要
- 論文名
- A new carcharodontosaurian theropod (Dinosauria: Saurischia) from the Lower Cretaceous of
Thailand
(タイ王国の下部白亜系から発見された新たなカルカロドントサウルス類獣脚類(恐竜類:竜盤類)) - 著者
- ドゥアングスダ・チョクチャロエムウォング(コラート化石博物館副館長)
服部創紀(福井県立大学助教・福井県立恐竜博物館研究職員)*責任著者
エレナ・クエスタ(福井県立大学・日本学術振興会PD)
プラトゥエン・ジンタサクル(コラート化石博物館館長)
柴田正輝(福井県立大学准教授・福井県立恐竜博物館研究員)
東 洋一(福井県立大学教授・福井県立恐竜博物館特別館長) - 掲載雑誌
- プロス・ワン(2019年10月9日掲載)
- 学名
- Siamraptor suwati gen. et sp. nov.
新属新種の獣脚類について
- 学名
- Siamraptor
suwati
(シャムラプトル・スワティ) - 名前の意味
- 属名はタイ王国の旧名(Siam)に、肉食恐竜に一般的に付けられる「略奪者(Raptor)」を組み合わせたもので、「タイの略奪者」を意味します。種小名はナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属珪化木鉱物資源東北調査研究所(通称:コラート化石博物館)の振興に注力してきたSuwat Liptapanlop氏にちなんで付けられました。
- 分類
- 竜盤目 獣脚亜目 アロサウルス上科 カルカロドントサウルス類
- 時代
- 白亜紀前期 (約1億2000万年前)
- 地層
- コラート層群 コク・クルアト層
- 発見場所
- タイ王国 ナコーン・ラチャシーマ県 ムアング区 スラナリ地区 サファン・ヒン村 恐竜化石発掘現場(図1)
- 発見日
- 2007年~2013年
発表までの経緯
福井県立恐竜博物館は、2007年から継続的にコラート化石博物館との共同発掘調査を行ってきました。その主な成果として、2011年には新種のイグアノドン類「Ratchasimasaurus suranareae(ラチャシマサウルス・スラナリアエ)」、2015年には同じく新種のイグアノドン類「Sirindhorna khoratensis(シリントーナ・コラーテンシス)」をそれぞれ報告してきました。
こうした共同調査で発見された化石は、両館でクリーニング作業が進められてきましたが、その中には前述の2種と全く異なる、大型の獣脚類の部分的な頭骨、脊椎、四肢骨などが含まれていていました。その一部は、正体不明の獣脚類化石としてコラート化石博物館で展示されていましたが、その正体を明らかにするべく、共同研究が続けられていました。
学術上の意義
カルカロドントサウルス類は、後期ジュラ紀〜白亜紀(約1億6000万年前〜約6600万年前)に汎世界的に分布した大型の肉食恐竜で、北米のアクロカントサウルスやアフリカのカルカロドントサウルス、そして勝山市の恐竜化石発掘現場で見つかったフクイラプトルなどがこのグループに含まれます。
今回報告した化石は、骨格が分離した状態ではあるものの、保存状態は良好で、分類に重要な特徴が確認できるパーツが比較的よく揃っていたため、詳細な研究が進められました。
一連の化石の形態を他の獣脚類と比較したところ、アロサウルス上科に共通する特徴が数多く認められました。中でも、頸椎の椎体に2つの含気孔が発達する点や、脛骨における距骨との関節面の上縁がやや不明瞭である点などは、同上科の中でもカルカロドントサウルス類に特有のものです。さらに、頬骨の下縁部が真っ直ぐである点や、上角骨の外側稜の後方に凹みが存在する点など、他の近縁種に見られない特徴が数多く認められることから、新属新種であると結論付けられ、シャムラプトル・スワティと命名されました。
本研究における系統解析により、シャムラプトルは既知のカルカロドントサウルス類の中でも最も早くに分岐した系統に位置付けられました。このような基盤的なメンバーが東南アジアで発見されたことは、フクイラプトルを含むカルカロドントサウルス類全体の放散の過程を知る上で非常に重要であり、その進化史の一端を明らかにしたと言えます。
図1.恐竜化石発掘現場
図2.シャムラプトルの全体像
図3.シャムラプトルの頭骨
図4.アロサウルス上科の系統関係