福井県で発見された新種の植物化石について

2020年1月27日

2013年から実施されている第四次恐竜化石発掘調査で発見された植物化石を福井県立恐竜博物館及び国立科学博物館が共同研究した結果、球果類(裸子植物)ナンヨウスギ科の種鱗複合体2種を含むことが判明しました。このたび、その研究成果を報告した学術論文が中国 吉林大学の学術誌「Global Geology」に掲載され、少なくともそのうち1種が新種であることが認められました。

発表の概要

雑誌名
グローバル・ジオロジー(中華人民共和国・吉林大学が発行)
論文名
Araucarian cone-scale complexs, newly found in the Aptian Kitadani Formation of the Tetori Group in Fukui Prefecture, Central Japan
(手取層群北谷層から新たに発見されたナンヨウスギ科の種鱗複合体化石)
著者
湯川 弘⼀(福井県立恐竜博物館)・⽮部 淳(国立科学博物館)
掲載日
2019年12月25日

化石について

時代
前期白亜紀(約1億2000万年前)
地層
手取層群北谷層
発見場所
勝山市北谷町 恐竜化石発掘現場
発見日
2014年~2015年(第四次恐竜化石発掘期間中)
分類
裸子植物 球果類 ナンヨウスギ科
学名
  1. アラウカリテス・キタダニエンシス(Araucarites kitadaniensis)[新種と認められた化石]
  2. アラウカリテスの⼀種(Araucarites sp.)[別の新種の可能性はあるが、証拠が十分ではなく、今後の研究で明らかにしていく予定の化石]

化石分類群(形態属)について

植物が化石になるときには、その植物全体がそのまま化石になることは稀で、葉、茎、根、⽣殖器官などが分離して、個別に化石になって発⾒されることがほとんどです。その場合、各部位に対してそれぞれ別の名前が与えられていることが多くみられます。

例えばナンヨウスギ属の植物にはAraucariaという属名が与えられますが、その属に属すると考えられる特徴を持った種鱗複合体のみが化石で出た場合は、Araucarites属という属名が与えられます。そのため、今回⾒つかった化石は、植物の⼀部である種鱗複合体につけられた名前であり、それが付いていた植物自体がどのようなものかは詳しくわかっていません。

学術的意義

  1. 北谷の発掘現場から見つかったナンヨウスギ科の植物化石2種のうち1種を新種の「Araucarites kitadaniensis(アラウカリテス・キタダニエンシス)」と命名しました。アラウカリテス・キタダニエンシスはナンヨウスギ属の中でもエウタクタ(Eutacta)節というグループに、もう1種はアラウカリア(Araucaria)節あるいはその他の絶滅節に比較されます。
  2. 発掘現場に分布する北谷層からは、花粉化石でしかナンヨウスギ科と推測される植物の存在が確認されていませんでしたが、今回初めて大型植物化石でもナンヨウスギ科の存在を確認でき、恐竜が生きていた当時の環境復元がより詳細になることが期待されます。
  3. 東アジアでは後期白亜紀に最もナンヨウスギ科の多様化が進んでいましたが、今回発見された異なる節に比較される2種の化石から、前期白亜紀においてすでに多様化が進んでいたことが明らかとなり、当時のナンヨウスギ科の東アジアにおける分布や進化を議論する上で非常に重要な情報をもたらすものと考えられます。
  4. 残りの1種も別の新種の可能性がありますが、証拠が十分ではないため、新たな標本を見つける必要があり、今後の調査・研究で明らかにしていく予定です。

ナンヨウスギ科の植物について

ナンヨウスギ科の植物は現在ほとんどが南半球に分布しており、北半球ではフィリピンやマレーシア、インドネシアに生息しています。ナンヨウスギ属(Araucaria属)、ナンヨウナギ属(Agathis属)、ウォレミア属(Wollemia属)の3属が確認されています。

ナンヨウスギ科の植物は球果の鱗片に種子が一つだけつき、その種子が鱗片に埋もれています。また、ナンヨウスギ属では、種子の少し上にリギュラと呼ばれる突起がつくのが特徴です。

ナンヨウスギ科の化石記録について

ナンヨウスギ科の化石は、古くは後期三畳紀の記録があり、中生代の温暖な気候から全世界的に分布域を広めていましたが、中生代末には北半球からほとんど確認できなくなります。

東アジアでは後期白亜紀に最も多様化が進み、いくつかの現生および絶滅グループがこの時期に記録されています。しかし前期白亜紀の化石記録は極めて限定的で、東アジアの多様化の歴史をたどるのは容易ではなく、また現生するグループの出現時期についても十分には分かっていませんでした。

標本写真等

アラウカリテス・キタダニエンシスの標本写真とスケッチ

アラウカリテスの一種の標本写真とスケッチ

種鱗複合体に関する説明図

北谷標本における各部位の説明図


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