勝山市(北谷)で発見された「スピノサウルス科」の恐竜の歯化石について
恐竜博物館では、1989年(平成元年)から勝山市北谷において恐竜化石発掘調査を行っていますが、これまでの発掘調査で発見された歯の化石が「スピノサウルス科」の恐竜の歯化石であることが判明しました。
産地
福井県勝山市北谷 恐竜化石発掘現場 手取層群北谷層 (前期白亜紀 約1億2000万年前)
発見・判明時期
1991年(平成3年)から2019年(令和元年)にわたって断続的に発見されましたが、当館の最新の研究によって、この度、スピノサウルス科の歯化石であることが判明しました。
標本数及びサイズ
- 標本数
- 18点(現時点)
- サイズ
- 最も太いもので歯冠の長さが46㎜、前後幅が18㎜、横幅が16㎜
特徴
- 断面が前後に長い楕円形
- わずかに後方に曲がる
- 縦方向に多数の筋が発達
- 筋が先端付近で弱まる
- 表面に細かいシワが発達する
発見の意義
スピノサウルス科は白亜紀に繁栄した大型の獣脚類の一群で、魚食性に適応した細長い頭部と円錐形の歯が特徴的です。日本では4例目の発見ですが、保存状態が良好な化石が多数見つかるのは今回が初めてで、群馬県の2標本と基本的には同様の特徴が見られますが、独自の特徴も認められます。
アジアにおけるスピノサウルス科の化石記録は、日本以外では中国やマレーシアで歯化石が見つかっているほか、タイやラオスでは骨格化石も発見され、特に後者は「イクチオベナートル」と名付けられています(図3/当館にレプリカ蔵)。いずれも当館の発掘現場とほぼ同時代(前期白亜紀)のものですが、歯だけで詳細な分類をすることは難しく、類縁関係は不明です。
しかし、北谷の発掘現場では例年多数の骨化石が見つかることから、今後の発掘でスピノサウルス科の骨化石が見つかる可能性は極めて高く、詳細な分類につながる発見と、同グループの進化史に関わるさらなる研究の進展が期待されます。
国内での発見例
- 群馬県神流町の瀬林層(約1億3000万年前)より産出。1994年に発見され、Hasegawa et al. (2003)により報告されました。群馬県立自然史博物館蔵(GMNH-PV-999)。歯冠の長さは51㎜と、北谷の標本よりもわずかに大きい歯化石です。
- 同じく神流町の瀬林層(約1億3000万年前)より産出。2015年に発見され、Kubota et al. (2017)により報告されました。神流町恐竜センター蔵(KDC-PV-0003)。
- 和歌山県湯浅町の湯浅層(約1億3000万年前)の転石より産出。2018年に発見されましたが、論文は未公表です。和歌山県立自然博物館蔵。
標本写真等
図1. スピノサウルス科の歯化石(18点)。
図2. スピノサウルス科の歯化石の詳細(※1点)。
図3. スピノサウルス科イクチオベナートルの生体復元模型(参考/模型制作:荒木一成)。