北谷層から発見されたトカゲ類化石

2021年3月22日

2020年の夏に行われた勝山市北谷町での恐竜化石発掘調査によって約2,200点の化石が採集されましたが、このうち1点がトカゲ類の化石であることが判明しました。また、過去に発掘された化石の再検討により、3点のトカゲ類化石が含まれていたことが明らかになりました。

発見された化石

左上顎骨(20×11×6㎜)

ほぼ完全な左の上顎骨です。2020年度の発掘調査で採集された他の化石のクリーニング作業中に発見されました。一部、切断作業で欠損していますが、比較的大きく、数の少ない歯が確認できます。

石川県白山市の手取層群桑島層から前期白亜紀の有鱗類の上顎骨が複数報告されていますが、全体的な形や歯などはいずれとも異なります。

図1

左歯骨(30×15×9㎜)

後方部が一部欠損していますが、ほぼ完全に保存されています。2019年度の発掘調査で採集されました。上顎骨と同様、大きくて数の少ない歯が特徴的です。上下に高さのある歯骨も珍しい形状です。

石川県のハクセプス・インベリス(Hakuseps imberis)や兵庫県のパキゲニス・アダチイ(Pachygenys adachii)に似た特徴を持ちますが、一番奥の歯の後ろに窪み(段差)がないことや、歯間に隙間があることなどは異なります。

図2

左歯骨(17×7×8㎜)

野外恐竜博物館で2018年に発見され、クリーニング後、トカゲ類の顎化石であることが明らかになりました。上記の歯骨に似ていますが、歯間が狭く、歯が相対的に大きくて、弱い条線が見られる点が異なっています。

図3

脳函(13×11×14㎜)

脳函の後方部が保存されています。北谷層からは初めての産出です。2009年の第三次調査で採集されました。日本の前期白亜紀の地層からの脳函化石は、兵庫県の篠山層群から報告されていますが、写真や図が示されておらず、どのような形をしているのかは不明です。現時点ではトカゲ類の脳函である可能性が高いですが、今後の詳細な研究が必要です。

図4

学術的意義

今回の発見の意義

爬虫類は、恐竜やワニなどの主竜類とヘビやトカゲなどの鱗竜類に分けられます。今回発表した上顎骨(うわあごの骨)と歯骨(したあごの骨)の歯は、「側生歯」という鱗竜類の中の有鱗類に特徴的な生え方を示しています。

図5

Bertin et al . (2018)を改変。

有鱗類は、トカゲやヘビ、ミミズトカゲなどを含む非常に多様な、現在でも生きている爬虫類の1グループです。しかし、化石種は発見が限定的なため、分類や系統関係、進化の過程などはまだよくわかっていません。

図6

北谷層から発見された顎化石標本は、トカゲ類の絶滅したグループの一つであると考えられます。また、石川県や兵庫県の同時代の地層から発見されている種とは異なり、モンゴルの種に類似する形態的特徴が見られます。しかし、これら全てと異なる形態も見られることから、新種の可能性が高いと考えています。

中生代のトカゲ類の進化

中生代のトカゲ類の化石記録は世界的に見ても少なく、特にアジアにおいては、中国の化石を除くと、モンゴルやウズベキスタンなどでの発見に限られています。さらに、日本の前期白亜紀の地層では、近年、石川県や岐阜県、兵庫県から複数の新種が、福井県福井市に分布する手取層群境寺互層から1種報告されているのみです。

今回発見された標本は、日本からは未報告な種類で、モンゴルの種に類似しています。同様の形態を示す歯や顎を持つトカゲ類化石は前期白亜紀のモンゴルに限られていますが、食性やその他の生態についてはよくわかっていません。今後の研究で種を同定し、顎の形態的特徴に焦点を当てた研究により、生態や当時の環境の解明に役立つと思われます。

北谷恐竜化石発掘現場への期待

トカゲ類の化石は小さく、発見や同定が困難な標本の一つです。第四次調査において少 なくとも3点発見されていることから、現在クリーニング中の化石からも追加標本が期待できます。トカゲ類化石の記録が追加されることで、北谷層の動物相の小型爬虫類について新たな知見を得ることができます。また、今年度は通常より小規模で調査を行ったため、発見数は少なめでしたが、十分な成果が得られました。骨化石密集層はまだ残存しているため、来年度の発掘に期待がもてます。


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