熊本県の新たな恐竜化石の発見:天草市から白亜紀末期のハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜)の歯について

2021年6月29日

天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査により、天草市天草町の姫浦 ひめのうら 層群 そうぐん 下津 しもつ 深江層 ふかえそう (白亜紀末期マーストリヒチアン:約7200万年前)から、ハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜:植物食)の歯2点が発見されました。熊本県の新たな恐竜化石産地が判明したことになります。また、地質時代マーストリヒチアンの恐竜化石として、国内では北海道、兵庫県、鹿児島県に次ぐ4か所目の産出地となり、白亜紀末期でも恐竜が日本に広く生息し続けていた新たな証拠となります。

発見した恐竜化石

鳥脚類ハドロサウルス上科の歯 2点

  1. 上顎骨歯 じょうがくこつし (長さ16 mm × 幅13 mm;GCM-VP745*)
  2. 歯骨歯 しこつし (=下顎の歯 長さ9 mm × 幅9 mm;GCM-VP746*)

* 天草市立御所浦白亜紀資料館(GCM)の標本登録番号

図1 発見された化石

図1 発見された化石。右:上顎骨歯(上顎の歯:GCM-VP745)の頬側、左:歯骨歯(下顎の歯:GCM-VP746)の舌側。
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

発見・研究の経緯

2018年(平成30)年10月、天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査において、天草町の海岸で姫浦層群の下津深江層に1点の歯(GCM-VP745)などの化石が露出した化石包含層が発見されました(図2)。当地は国立公園および名勝地内のため、許可取得後の2021年3月に御所浦白亜紀資料館が発掘を行い、追加標本(GCM-VP746)含む化石を収集しました。化石の共同研究によって、ハドロサウルス上科の上顎骨歯および歯骨歯(下顎の歯)と判明しました(図1と3)。その他の化石については現在研究中です。

図2 化石の発見地

図2 化石の発見地、天草市天草町の海岸(図中の星印)。
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

図3 発見された化石の図説

図3 発見された化石の図説。右:上顎骨歯(上顎の歯:GCM-VP745の3画像)、左:歯骨歯(下顎の歯:GCM-VP746の3画像)。
向きが異なる画像の合成。上顎歯下段の図(スケールそば)が歯の咬耗面となる。
白矢印は特徴となる中央の発達した稜、オレンジの矢印は歯骨歯の弱い二次稜線を指す。
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

恐竜化石の特徴

2点共に1本の顕著な稜が中央にあり、歯根が単一であること、白亜紀末期(約7200万年前)の地層からの発見などから、進化的なハドロサウルス上科の歯であると考えられます。うち上顎骨歯1点(図1右、GCM-VP745)は、咀嚼に使用された機能歯であり、咀嚼ですり減った咬耗面が確認できます(図3)。歯骨歯1点(図1左、GCM-VP746)の咬耗面は破損のため確認できませんが、発達した稜の脇には2つ目の弱い稜線があります(図3)。ハドロサウルス上科の進化的グループは、歯が密集して存在するデンタルバッテリーと呼ばれる構造があり(図6)、これらの歯はデンタルバッテリーを構成していた歯と判明しました。

学術的意義

  1. ハドロサウルス上科はアジアで多様化し、白亜紀の中ごろには北米へ移動したものが、進化的な種として後にアジアへと戻り、白亜紀末期まで繁栄しました。進化的なハドロサウルス科とやや原始的なハドロサウルス上科が共存していたことも分かっています。熊本県のハドロサウルス上科の化石は、天草市御所浦町の御所浦層群(約1億年前:歯などの化石)、御船町の御船層群(約9000万年前:頭骨の一部など)、さらに、天草市天草町の軍ヶ浦層 いくさがうらそう (別名:宮野河内層:約8000万年前)から足跡の化石が発見されていました。今回の化石はこれまで恐竜化石の記録がなかった天草市の西海岸から発見され、白亜紀末期という新しい時代(マーストリヒチアン:約7200万年前)のものです。このことから、熊本県は日本のハドロサウルス上科の変遷史をたどるうえで、時代の異なる重要な化石記録が得られる場所であると分かりました。
  2. マーストリヒチアンの恐竜化石は、恐竜の大絶滅前の多様性がどうであったかを知る重要な研究資料です。過去、国内では3か所、4例の化石しかありません(図4)。北海道むかわ町穂別からはカムイサウルス・ジャポニクス(ほぼ全身骨格)、兵庫県洲本市(淡路島)からはヤマトサウルス・イザナギイ(図5参考:歯骨、頸椎など)が発見され、これら2種はハドロサウルス科の新種です。鹿児島県薩摩川内市上甑島ではハドロサウルス上科(大腿骨)と獣脚類(歯)の化石が報告されました。日本にはマーストリヒチアンの化石記録がまだ多くありませんが、今回の発見は白亜紀末期まで恐竜が日本に広く生息していたという証拠が追加されたと言えます。

図4 日本の恐竜化石産出地

図4 日本の恐竜化石産出地。オレンジ色は他のマーストリヒチアンのもの、赤い星が今回の化石発見地。

図5 進歩的なハドロサウルス上科の恐竜 画像提供:山本 匠

図5 進歩的なハドロサウルス上科の恐竜、カムイサウルス。 画像提供:山本 匠

図6 進化的ハドロサウルス上科のエドモントサウルスを例にした下顎と歯の構造

図6 進化的ハドロサウルス上科のエドモントサウルスを例にした下顎と歯の構造。中および下段赤枠がデンタルバッテリーを示す。
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

展示公開予定

下記の予定で天草市御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館において、化石(実物および複製)が一般公開されます。

  • 天草市御所浦白亜紀資料館
    2021年7月17日㈯~8月31日㈫の期間、天草市立御所浦白亜紀資料館企画展「恐竜からイルカまで天草一億年の旅 − 御所浦白亜紀資料館収蔵品展 −」の会場にて、実物化石を展示。
  • 福井県立恐竜博物館
    2021年7月17日㈯から常設展示で複製を展示。

福井県立恐竜博物館
所在地:
〒911-8601 
福井県勝山市村岡町寺尾51-11
かつやま恐竜の森内
TEL:0779-88-0001(代表)
TEL:0779-88-0892(団体受付)

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