富山県から発見された新種のアンモナイトについて

2021年7月9日

福井県立恐竜博物館の研究員を中心とするチームは、富山県朝日町の来馬層群 くるまそうぐん 寺谷層 てらだにそう (前期ジュラ紀:約1億8500万年前)から発見された化石を調査し、東アジア初報告となるアンモナイトのアマルチウス属の1新種と、同属の2つの別種を含む計4種の存在を明らかにし、その研究成果を国際学術誌に発表しました。アマルチウス属は、前期ジュラ紀の国際対比に使われる代表的な示準化石となるアンモナイトで、新種を含む日本周辺での多様性は重要な新知見です。新種の化石については恐竜博物館の令和3年度特別展にて展示いたします。

研究で明らかになった化石

  1. アマルチウス属の新種:化石標本4点(* 令和3年度特別展にて展示。)
    アマルチウス・オリエンタリス Amaltheus orientalis
    完模式標本1点
    TOYA-Fo-2974:富山市科学博物館所蔵 *
    副模式標本3点
    TOYA-Fo-2986:富山市科学博物館所蔵 *
    NU-MM0010:新潟大学所蔵 *
    NMNS PM23448:国立科学博物館所蔵
  2. アマルチウス属の日本初報告の種
    ①アマルチウス・レプレッサス(Amaltheus repressus/ロシア種):化石標本2点
    ②アマルチウス・マーガリタトゥス(Amaltheus margaritatus):化石標本11点
  3. 富山県朝日町と山口県西部で確認された種
    ③アマルチウス・ストケジ(Amaltheus stokesi):化石標本10点

図1 新種のアマルチウス属アンモナイト、アマルチウス・オリエンタリスの化石

図1 令和3年度特別展にて展示される、新種のアマルチウス属アンモナイト、アマルチウス・オリエンタリスの化石。
左から、完模式標本(TOYA-Fo-2974、富山市科学博物館所蔵)、富山市科学博物館所蔵の副模式標本(TOYA-Fo-2986)、新潟大学所蔵の副模式標本(NU-MM0010)。
画像提供:福井県立恐竜博物館・富山市科学博物館・新潟大学

論文

  1. タイトル
    The late Pliensbachian (Early Jurassic) ammonoid Amaltheus in Japan: systematics and biostratigraphic and paleobiogeographic significance
    [和訳:プリンスバッキアン後期(前期ジュラ紀)における日本のアマルチウス属アンモノイド:系統分類および生層序学的・古生物地理学的意義]
    2021年5月26日よりオンラインで先行公開
  2. 著者(連名順)
    中田 健太郎(福井県立恐博博物館研究員)
    後藤 道治(福井県立恐竜博物館名誉研究員:元富山市科学博物館学芸員)
    クリスチャン・マイスター(ジュネーヴ自然史博物館研究員)
    松岡 篤(新潟大学教授)
  3. 掲載雑誌
    ジャーナル・オブ・パレオントロジー(Journal of Paleontology)
    米国古生物学会発刊の古生物学の国際学術論文誌

展示

展示会名
恐竜博物館令和3年度特別展「海竜 ~恐竜時代の海の猛者たち~」
展示期間
2021年7月16日㈮~10月31日㈰
場所
恐竜博物館特別展示室

化石の研究経緯

アマルチウス属の新種、アマルチウス・オリエンタリスの化石は4点あり、うち2点は1980(昭和55)年に論文共著者の後藤道治(当時、信州大学大学院生)と川口通世(福島県郡山市在住:当時、信州大学理学部生)が富山県朝日町の境川沿いの来馬層群寺谷層から発見しました(後に、後藤が所属した富山市科学博物館に登録収蔵)。2009(平成21)年には、論文筆頭著者の中田健太郎(当時、新潟大学大学院生)と研究協力者の宮北健一(新潟県新潟市在住)が、1980年の産出地近くの別地点で、3点目の化石を発見しました(新潟大学で登録保存)。さらに中田による研究調査の過程で、国立科学博物館に4点目の化石が収蔵されていることも判明しました。これら同じ地層からの新種の化石と、同じ属の別種の化石を併せて、総合的な研究を進めてきました。研究には、ジュラ紀のアンモナイト研究の権威であるジュネーヴ自然史博物館(スイス)のクリスチャン・マイスターと、新潟大学の松岡篤(中田の元指導教官)が参画し、中田がチームを主導して研究を行いました。

図2 化石の発見地

図2 新種のアンモナイト、アマルチウス・オリエンタリスの化石が発見された現場。
富山県朝日町の境川沿いに分布する来馬層群寺谷層から発見された。
右の地図中のグレーは来馬層群の分布を示す。

研究で明らかになった化石の意義

東アジア初のアマルチウス属の新種である

アマルチウス属は、北西ヨーロッパ(イギリス、ドイツ、フランスなど)、北米(アメリカ、カナダ)、ロシアなど、北半球の比較的高緯度地域に生息していた前期ジュラ紀の代表的なアンモナイトで、時代を決める重要な示準化石として知られます。北半球で広く分布する種以外に、それぞれの地域でのみ知られる固有種もいます。今回の新種(アマルチウス・オリエンタリス)は、東アジアでは初めてとなるアマルチウス属の新種となり、当時の日本近海に生息する固有種と考えられます

アマルチウス・オリエンタリスは、ロシア北東部から発見された複数のアマルチウス属の固有種と類似する特徴がありますが、オリエンタリスはより殻の巻きが緩いこと、殻の表面に見られる凸の条線模様である「肋」が明瞭で不規則なことなどから、ロシアの固有種たちとは系統的には近いながらも、別種とわかりました。

北陸地方のアンモナイトの群集はロシアの群集との関わりが深い

アマルチウス属のアンモナイトは、北半球に広く分布していた「一般種」、ヨーロッパに限られる「北西ヨーロッパの固有種」、ほぼロシア限定でごく一部は北米にも記録がある「ロシアの固有種」に分けられます。それぞれ分布域に関連した種の群集区分は、当時の前期ジュラ紀の海洋環境を反映すると考えられるため、日本のような東アジア地域でのこの属の産出は、同時代の海洋環境を解明する上で非常に重要です。

来馬層群寺谷層では、アマルチウス属の複数の種が存在することが確認できました。そのうち数多く見つかったのは「一般種」のストケジとマーガリタトゥスですが、「ロシア種」であるレプレッサスも含まれています。ちなみにこれは、レプレッサスがロシア以外で確認された初めての例となります。なお、北米ではレプレッサスではない「ロシア種」の数少ない発見例があります。

ロシアでは「一般種」と「ロシア種」が混在する群集構成ですが、日本ではここにロシアの固有種と類似する新種のオリエンタリスが加わることとなります。来馬層群寺谷層からわかる日本の前期ジュラ紀のアンモナイト群集は、「北西ヨーロッパ種」を含まず、同時期のロシア地域の群集と関わりが深いことが研究で明らかとなりました。

参考

アマルチウス属の形態と時代に関する特徴

アマルチウス属は、一般的に比較的密に巻いた円盤状の殻をもち、それほど明瞭でなく一部が緩く屈曲する肋(殻の表面の線状模様)、縄目状の竜骨(殻の縁の板状隆起)を特徴とするアンモナイトです。アマルチウス属の種の同定は、これら3つの要素の違いを確認し、その組み合わせに基づいて行います。この度の研究において新種と確認されたオリエンタリスは、アマルチウス属としては非常に緩く巻く殻、明瞭かつ不規則で一部が強く屈曲する肋、それほど発達していない竜骨などが特徴として挙げられます。 アンモナイトは進化が早く、それぞれの種が存在する期間も短いことから、地層の時代を決める「示準化石」としてしばしば用いられます。アマルチウス属は、前期ジュラ紀の中でもプリンスバッキアン後期の序盤~中盤(約1億8750万年前~約1億8350万年前)のみに生息していました。単一の属としてはわずかといえるこの期間で様々な種が進化と絶滅を繰り返すことから、アマルチウス属は前期ジュラ紀のもっとも重要な示準化石のひとつと位置付けられています。

アマルチウス属の分布に関する特徴

アマルチウス属は、比較的寒冷であったと考えられている当時の北半球高緯度地域を代表するアンモナイトであるため、寒冷な古環境の指標としてしばしば用いられます。 それに対し、一般的には日本のジュラ紀のアンモナイトは、低緯度地域に特徴的とされる種が発見されるため、当時の日本は概して温暖な海域にあったと考えられています。来馬層群寺谷層の場合、先行研究の時点から高緯度地域型のアマルチウス属の存在は知られていました。本研究ではさらに産出層ごとのアンモナイトの種類を詳細に調査した結果、アマルチウス属の化石は少なくとも一定期間は低緯度地域型のアンモナイトと共産せず、高緯度地域型のアマルチウス属のみからなる時期の後に、低緯度地域型のアンモナイトも出現することが明らかになりました。


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