タイ恐竜発掘調査レポート2022

恐竜博物館はタイでの恐竜化石共同発掘調査を行っています。タイ王国珪化木鉱物資源東北調査研究所(タイ王立ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属)との共同発掘調査です。

2022年度の発掘が始まりました。

タイ王国東北部に一面に広がる畑。その中に発掘現場があります。畑を数十㎝掘ると“島”状の岩塊が出てきます。この硬い岩塊は恐竜時代の地層でできたもので、この中に化石が眠っているのです。

執筆:柴田 正輝(11月7日撮影)

表に出ない重要な仕事

タイの発掘作業では石を割るほかに重要な作業があります。それは露出した岩石の“島”を一つ一つ測量して、どこの“島”からどんな化石が出たかを記録する基礎データを作る仕事です。石を割って運び出すまでに、測量を終えないといけないため、時間との勝負になり、タイ側スタッフとの連携がとっても重要です!

露出した“島”

写真1:露出した“島”

測量している様子

写真2:測量している様子

測量した“島”データ

写真3:測量した“島”データ

執筆:湯川 弘一(11月13日掲載)

発見された化石たち

タイでの発掘も3週目に入りました。発掘現場の地層は石灰質の礫岩でとても堅く、大ハンマーで大割りをし、ハンマー隊が小割りをします。恐竜、カメ、ワニ、魚といった脊椎動物化石が豊富に産出します。ほかにもわずかに二枚貝や植物化石も出ますが保存がよくありません。またフンの化石も多く、魚のウロコがたくさん入っているものは、何が魚を食べていたのか想像を膨らませてくれます。

職員も大ハンマーをふるいます

写真1:職員も大ハンマーをふるいます

ハンマー隊

写真2:ハンマー隊

肉食恐竜の歯の化石

写真3:肉食恐竜の歯の化石

魚のウロコが密集したフンの化石

写真4:魚のウロコが密集したフンの化石

執筆:野田 芳和(11月21日掲載)

表に出ない重要な仕事2

露出した岩石の“島”を測量するのが重要な仕事として紹介いたしましたが、見つかった化石を持ち帰るまでの過程でも気を付けなければいけないことがたくさんあります。例えば、見つかった化石に番号を付けて他の化石と区別できるようにし、何分割かも化石の周りに記しておくことです(写真1)。取り上げやすいサイズの岩から重機で上げていき、ハンマー隊(石の小割部隊)に送るため、先に番号を付けないと重機で移動したときにわからなくなってしまいます。時には手の届きづらいところで見つかることもあり、番号を付けるだけでも一苦労です(写真2)。その際、化石の場所も測量してデータを残すので(写真3)、化石が見つかったときは、どんな化石かを記録し番号をリストに登録する人、化石の付いている石に番号を付けて化石の保護をする人、化石の位置を測量する人など一斉に群がって作業をすることになります。

見つかった化石についた番号と分割数

写真1:見つかった化石についた番号と分割数

手の届きにくいところに番号を付けるところ

写真2:手の届きにくいところに番号を付けるところ

保護した化石の付いた石の上で、化石の位置を測量しているところ

写真3:保護した化石の付いた石の上で、化石の位置を測量しているところ

執筆:湯川 弘一(11月22日掲載)

コラートでの発掘も終盤です。

今年度のタイ発掘では雨に悩まされました。2007年から続いているタイ王国コラートでの発掘調査ですが、乾季である11月にここまでの豪雨はなかったように思います。短時間ですがドバっと勢いよく降る雨で、日本でいう線状降水帯のようなものでしょうか。夜に雷雨があると朝の現場では「島」のエリアが水につかり、水を抜くまで岩石を割り出せない状態になってしまいます(写真1)。小割りのハンマー隊の地面もぬかるんで大変です。

そうした天候にもかかわらず、発掘は順調に進み、多くの「島」が姿を消していきます(写真2)。化石も続々発見、採集され、小割りされた標本の登録作業も着々と進んでいます(写真3)。化石の写真も2つ紹介します(写真4、5)。

夜の雨で水没状態の発掘現場

写真1:夜の雨で水没状態の発掘現場

21日の発掘現場。だいぶ「島」が片付いていきます。

写真2:21日の発掘現場。だいぶ「島」が片付いていきます。

小割り標本の登録

写真3:小割り標本の登録

三本指のように見えますが、割れ方でたまたまそのように見える骨

写真4:三本指のように見えますが、割れ方でたまたまそのように見える骨

魚の化石です。菱形の鱗が見えます。

写真5:魚の化石です。菱形の鱗が見えます。

執筆:野田 芳和(11月25日掲載)

魅惑の♡(ハート)模様を求めて

発掘もいよいよ大詰めを迎えてきました。これまでの方々が発掘現場での様子や見つかる化石について詳細に説明されていますので、ここでは少々マニアックな内容を紹介したいと思います。

発掘現場の地層からは、恐竜やカメなどの脊椎動物化石のほかに、わずかですが二枚貝化石も見つかります。石からコロンと分離して出てくる北谷恐竜発掘現場の貝化石とは異なり、石の中で真二つに割れた断面としてみつかります。その際、断面の位置によってはハートのような模様(♡)にみえることがあります(図1、2)。赤色の岩石に白色のハート模様、恐竜時代からのラブコールのようで、ちょっぴりほっこりしてしまいます(笑)。

中央の白い筋が貝化石の断面です。恐竜時代の細長いハート♡模様が見えますか?

写真1:中央の白い筋が貝化石の断面です。恐竜時代の細長いハート♡模様が見えますか?

実は、ハートに見えることは結構珍しく、基本的に括弧()のように見えます。

写真2:実は、ハートに見えることは結構珍しく、基本的に括弧()のように見えます。

執筆:安里 開士(11月27日掲載)

後半の調査開始

後半の調査ではシリントーン博物館と共同でタイ東北部の調査を進めています。

先週はタイ東部ウボン・ラチャタニ県(ラオスとの国境付近)のマイクロサイト(微小な骨化石が見つかる産地)を訪れ、数㎜から数㎝の骨や獣脚類の歯の破片、ワニや淡水性のサメの歯、硬鱗魚のウロコ、カメの甲羅などを採集しました。

ここは前半の調査(コラート)で発掘していたのと同じ前期白亜紀のコク・クルアト層ですが、池で堆積したと考えられる点が異なっています。数m離れただけでも水深や水流の強さの変化により見つかる化石が変わることから、かつての環境とそこに生息していた生物の対応関係を復元できる興味深い発掘現場です。

マイクロサイトでの調査風景

写真1:マイクロサイトでの調査風景

骨化石を発見した研究職員

写真2:骨化石を発見した研究職員

採集されたマイクロ化石

写真3:採集されたマイクロ化石

執筆:関谷 透(12月5日掲載)

これぞまさにボーンベッド!!―プノイ(Phu Noi)の恐竜化石発掘現場―

すでに紹介してきたように、タイ、特に東北地域のコンケーンやカラシン周辺には、数多くの恐竜化石発掘現場があります。その中でも、世界に誇れる骨化石密集層、まさにボーンベッドが露出しているのが、カラシンの街から約60㎞北東にある「プノイ(Phu Noi)」と呼ばれる場所です。ジュラ紀最後期〜前期白亜紀の地層である、プクラドゥング(Phu Kradung)層が分布しています。

ここからは、マメンチサウルスに近縁な竜脚類が複数個体発見されています。写真のように、骨化石が接するほど密集して産出しています。奥にはまだ多くの恐竜化石が眠っているようです。このようなボーンベッドは、アジアでは中国以外には無く、非常に重要な発掘現場です。

露出するボーンベッド(手前)と発掘作業中のシリントーン博物館職員

写真1:露出するボーンベッド(手前)と発掘作業中のシリントーン博物館職員

ボーンベッド全景

写真2:ボーンベッド全景

密集する骨化石

写真3:密集する骨化石

執筆:柴田 正輝(12月15日掲載)

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