タイ王国で発見されたアジア最古級のマクロナリア類(竜脚類恐竜)の化石について
タイ王国東北部チャイヤプーム県で2008年7月に発見された、中期ジュラ紀(約1億7000万年前)の竜脚類恐竜の頸椎(首の骨)が、アジア最古級のマクロナリア類のものと分かりました。アジアと他の大陸地域をまたいだ竜脚類恐竜の進化と多様性を知る重要な資料であり、その成果の一部は本年6月の日本古生物学会でも発表されました。
標本について
- 産出地と時代
- 産出地
- タイ王国チャイヤプーム県(図1参照)
- 地層
- コラート層群ナム・ポン層
- 時代
- 中期ジュラ紀(約1億7000万年前
- 大きさ
- 前後 31㎝、幅 14.8㎝、高さ 34.7㎝ (図2参照)
- 化石の特徴
- 化石は背骨であり、空洞(含気窩)の発達と椎体の腹側に稜をもつことから、竜脚類恐竜の背骨と分かります。その椎体の長さと高さの比(約1.4)と、傍突起が含気孔の腹側にあることから、背骨は後方の頸椎と考えられます(図3参照)。CTでの観察で椎体の内部に複雑な空洞があることや、椎体の後方関節面の背側に切れ込みがあることが分かりました。これらは竜脚類の比較的進化したグループであるマクロナリア類に共通する特徴です。(図4参照)
学術的意義
竜脚類恐竜の化石は世界の各大陸に記録があり、大陸間をまたいだその進化についてアジアから重要な手がかりが得られます。アジアにおいて、マクロナリア類と呼ばれる進歩的な竜脚類のグループは、中国にアジア最古(中期ジュラ紀)の化石記録があるほか、前期白亜紀のタイ東北部に東南アジア最古の化石記録(サオ・クア層のプウィアンゴサウルスの化石)があることから、遅くとも約1億3000万年前にマクロナリア類が南下して東南アジア地域にも生息域を拡げたとされていました。
今回の中期ジュラ紀(約1億7000万年前)の化石は、当初はその分類が分かっていませんでしたが、今回の研究によってアジア最古級のマクロナリア類と判明しました。マクロナリア類が予想よりも約4000万年も前から東南アジアで生息域を拡げ、より原始的な竜脚類のグループ(ブルカノドン類)と共存していたと考えられる結果となります(図4参照)。
マクロナリア類について(参考)
マクロ(大きな)ナリス(鼻)が語源で、骨鼻孔の直径が眼窩よりも大きいことから名づけられた竜脚類恐竜のグループです。竜脚類の中では比較的進化したグループで、中期ジュラ紀から後期白亜紀までの約180種が知られています。ほぼすべての大陸で生息していました。
展示について
発見された化石は、下記のとおり展示公開します。実物化石は、入れ替えての展示となります。
- 期間
- 2025年8月5日(火)から11月3日(月)まで
- 場所
- 恐博物館本館1階クリーニング室横
参考画像等
図 1 化石の産地
図2 マクロナリア類の頸椎化石 左:左側面、右:右側面
図3 後部頸椎の位置
図4 竜脚類の系統図
今回の研究により、マクロナリア類が東南アジアで約4000万年も早く生息域を拡げたことが分かり、タイでより原始的なグループであるブルカノドン類と共存していた可能性が高い。