タイ恐竜発掘調査レポート2013Ⅱ

恐竜博物館はタイでの第3次恐竜化石共同発掘調査を開始しました。タイ王国珪化木鉱物資源東北調査研究所(タイ王立ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属)との共同発掘調査で、2011年度2012年度に引き続く4ヶ年計画の3年目です。

「今年度のタイ発掘が始まりました」

2013年11月20日 / 村上 達郎

日本では冬になり、福井では雪が降り始めたでしょうか。タイでは乾季に入り暑さがどんどん増してきています。タイでの発掘が11月13日から始まり、現在、恐竜博物館から私を含め3名の研究員がタイを訪れています。タイでの発掘はタイのコラートフォッシルミュージアムのメンバーと共同で行っており、そこに地元の大学生や現地の人も参加し、総勢30人以上で発掘を行っています。みんな和気あいあいとして楽しい発掘現場です。

私はタイに行くことが初めてで、タイ語はもちろん英語もほとんど会話することができない状態です。タイの人はみんな優しく、言葉が通じていなくても、ジェスチャーやわかりやすい英語を使って伝えてくれるので、とても助かっています。私もタイ語を少しずつ学んでいます。サワディーカップ(あいさつ)、コープクンカップ(ありがとう)が初めて覚えた言葉で、とても大事な言葉です。※タイ語の丁寧語は語尾に男性なら「カップ」女性なら「カー」をつけるようです。

今年のタイ発掘は始まったばかりです。今後の成果に期待してください。

発掘現場。中央の人は発掘祈願のお祈り中。

発掘現場。
中央の人は発掘祈願のお祈り中。

発掘作業中

発掘作業中

突然のスコール。この後はもちろん泥んこまみれになりました。

突然のスコール。
この後はもちろん泥んこまみれになりました。

脊椎骨。いったい何の恐竜のものでしょうか。

大脊椎骨。
いったい何の恐竜のものでしょうか。

「タイの発掘調査」

2013年12月3日 / 関谷 透

2007年に初めてコラートでの発掘に参加したとき、私はまだ吉林大学の留学生でした。キャッサバ畑の下から恐竜の化石が見つかるとは思いもよらず、また地下水の影響によるのか、地層が「島」のように分かれているのも奇妙な光景でした。今年は博物館の職員として、新たな覚悟でトウモロコシ畑に囲まれた発掘現場に臨んでいます。

11月中旬から始まった発掘は中盤に差し掛かり、全体的な流れと役割分担が確立されてきました。まずは地層を1m大に分割し、割れ方を記録して、化石探しとナンバリングをします。この割れたブロックをハンマー隊へ送って小割りするという段取りですが、日本・タイともに新旧の顔ぶれが一緒になって、絶妙なチームワークが出来上がっています。

私は前線で、どの島をどこから分割するか、タイの人たちと相談しつつ、ブロックから化石を探す仕事を担当しています。また、ブロックに識別番号をつけて、ハンマー隊へ送ることもしています。このとき空いているスペースの有無や進み具合も踏まえて送らないと、スムーズに作業が進まなくなってしまいます。

南国の日差しに映えるレンガ色の礫岩層から、白く輝く骨の化石が見つかると、汗を拭くのも忘れて見入ってしまいます。

「島」のように分かれた地層

「島」のように分かれた地層

大ハンマー隊

大ハンマー隊

小ハンマー隊

小ハンマー隊

化石の産出状況を記録する

化石の産出状況を記録する

「地層を見る。」

2013年12月19日 / 久保 泰
図1:地層の前でじっくりとスケッチ
図1:地層の前でじっくりとスケッチ

化石は地層から発掘されます。その地層を見ることで、化石になった骨がどんな環境で埋まったか、その動物が死んだ場所からほとんど移動せずに埋まったのか、あるいは水流などによって運ばれた後に埋まったのかなどがわかります。地層を見て地層がたまった環境を復元する学問を、堆積学といいます。今回、タイの発掘現場の地層を調べるために、岡山大学から、堆積学の先生と学生さんが来てくれました。

堆積学の研究では地層をしっかりとみて、細かいスケッチをしなければいけません。タイの発掘現場は、重機が動き回ったり、硬い岩を破壊する邪魔にならないようにどかなければいけなかったりと忙しいのですが、先生たちは一日以上の時間をかけて、じっくりと地層のスケッチをしていました(図1)。

図2:地層の縞々、水の流れがあった証拠
図2:地層の縞々、水の流れがあった証拠

さて地層をみてどのようなことが分かったのでしょうか。タイの発掘現場では化石は関節した状態ではなく、バラバラになった状態でみつかるので、おそらく恐竜は別のところで死んで、そこから運ばれてきた骨が埋まったのだろうと考えられます。地層からも同様のことが言えるようです。タイの地層を見ると、線のようなものがたくさん見えて、「しましま」になっています(図2)。これは「ラミナ」と呼ばれるもので、水流によってつくられたと考えられます。タイの発掘現場の岩には、細かいラミナがびっしりと入った部分があるので、これは常に水流のあるようなところで地層がたまったことを示しているのだそうです。昔は川があり、水の流れがあるところに、のちに化石になる骨が運ばれてきたということでしょうか。

タイの発掘現場では、他にも不思議なことがあります。化石が入っている地層は、いくつもの大きな岩の塊として地中に埋まっています。我々は発掘の時に一つ一つの岩の塊を「島」とよんでいます(図3)。でも、なんでこの「島」ができるのか、わからなかったのです。今回、堆積学を専門とする方に見ていただいたことで、その原因が推定できました。化石の入った地層は水に弱い石灰質の岩だったのです。化石が入った地層は一度地表に露出し、その時に水による浸食を受けて溝ができ、いくつもの島にわかれたのではないかということでした。その後に、また土壌によって覆われて、地中にいくつもの島がある状態になったのではないかということです。

堆積学は野外だけでは終わりません。地層のサンプルを研究室に持ち帰って、調べることで、今後さらに色々なことが分かるかもしれません。発掘しているタイの恐竜たちがどのような環境で暮らしていたのか、もっと詳細にわかるのではないでしょうか。

研究の専門分野が違う人が同じ地層を見ることで、わからなかった多くのことが分かってきます。恐竜の研究をするのも、恐竜を研究する人だけではできません。恐竜と一緒に暮らしていた動植物を研究する人、地層の年代や環境を研究する人、堆積学を研究する人など、様々な専門をもつ人がチームになって研究することで、多くの事がわかってくるのです。

図3:発掘現場の地層は、多くの『島』にわかれている

図3:発掘現場の地層は、多くの『島』にわかれている

「タイ発掘レポート 最終号」

2014年1月5日 / 関谷 透
発掘メンバーの集合写真。私はヒゲがボーボーです。
発掘メンバーの集合写真。私はヒゲがボーボーです。

南国とはいえ、タイのコラートでも朝夕は半そででは肌寒いくらいの陽気になってきました。12月20日をもって、今年度の発掘調査が無事に終了しました。今回も大小さまざまな化石が見つかりました。

野外での作業がひと段落すると、採集した化石標本の整理が行われます。化石を満載したテンバコが山のように積み上げられ、ひとつひとつ鑑定して番号をつけ、リストアップしていきます。

発掘された化石はまだ岩石の中に入っているので、特に研究に良さそうなものや、福井県立恐竜博物館の設備を使って慎重にクリーニングする必要がある標本は、日本へ運ばれることになります。これらはひとつずつ大きさを測り、写真も添えて書類を提出しなければタイから持ち出すことはできません。地道な作業ですが、有望な標本なので期待が持たれます。

今回の発掘で発見された化石は、肋骨や四肢骨といった細長い骨が比較的多いような印象を受けました。2007年は頭骨周りの化石が目立ち、2008年は脊椎骨ばかりが多産した記憶があります。発掘場所は年を経るごとにとなりの畑へ移っているので、上記のレポートで取り上げられていた堆積学的な要因と関係があるのかどうか、今後研究してみると面白いかもしれません。

私としては、コラートでの発掘は2008年以来5年ぶりとなりました。当時よりも、発掘に参加するコラート化石博物館の職員が増え、皆がてきぱきと動いているように思います。私が所用で手が離せない時にはコラートの職員が自分たちで決めて作業を進めているという場面もちらほら見受けられ、頼もしい反面、若干の物寂しさを感じました。最終盤になってからも有望な化石が続々と発見されており、後ろ髪を引かれるような気持ちで帰国の途に就きました。

埋め戻しが終わった発掘現場と、ハンマー隊が割り終えた石の山

埋め戻しが終わった発掘現場と、ハンマー隊が割り終えた石の山

日本へ輸出されるのを待つ化石たち

日本へ輸出されるのを待つ化石たち

「特別号:姉妹提携のご報告」

2014年1月6日 / 関谷 透
姉妹提携後の記念写真
姉妹提携後の記念写真

12月28日、福井県立大学恐竜学研究所とタイ国立ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学附属珪化木鉱物資源東北調査研究所との姉妹提携が調印されました。

調印式には西川一誠福井県知事とナコーン・ラチャシーマ県のヴィナイ・ブアプラディット(Vinai BUAPRADIT)知事も臨席されました。

福井県からは同研究所の野田芳和客員教授と柴田正輝講師(連署人)が、コラート側はルアンチャン・ブーンサック副学長とプラトゥエン・ジンタサクル助教授(兼・コラート化石博物館長:連署人)が調印しました。

これはナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学としては初の海外研究機関との姉妹提携で、ブーンサック副学長の記念挨拶では、今後は共同研究の活発化や人材交流の充実を図りたい旨が語られました。

野田客員教授からは、福井県立大学の恐竜学研究所が、アジア全体に渡る恐竜研究を目的として設立された旨、今後は集まった熱心な学生たちを国際的な研究者として育て上げていきたいと語られました。

同日、西川知事は式典の会場となったコラート化石博物館(通称)を視察するとともに、県立恐竜博物館との共同調査が行われた発掘現場も訪れました。

コラート化石博物館の視察

コラート化石博物館の視察

コラート化石博物館の視察

コラート化石博物館の視察

コラート化石博物館の視察

コラート化石博物館の視察

恐竜化石発掘現場の視察

恐竜化石発掘現場の視察


福井県立恐竜博物館
所在地:
〒911-8601 
福井県勝山市村岡町寺尾51-11
かつやま恐竜の森内
TEL:0779-88-0001(代表)
TEL:0779-88-0892(団体受付)

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