タイ恐竜発掘調査レポート2017
恐竜博物館はタイでの恐竜化石共同発掘調査を行いました。タイ王国珪化木鉱物資源東北調査研究所(タイ王立ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属)との共同発掘調査です。
「今年度の発掘が始まりました。」
今年度のタイでの発掘調査が始まりました。期間は2017年1月18日~2月25日の予定です。タイでの発掘調査は、ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属珪化木鉱物資源東北調査研究所との共同調査です。日本(福井)からは3名が参加、後から2名が合流の予定です。
タイでの共同発掘調査ではこれまでに、新種のイグアノドン類ラチャシマサウルス・スラナリアエ、シリントーナ・コラーテンシスの報告や国際シンポジウムでの成果発表など、多くの成果を上げています。
今年度の発掘現場は、ナコーン・ラチャシーマ県(コラート)、クロック・ドゥアン・ハ村で、2014年までのサファン・ヒン村の現場から約550m東にあります。発掘する地層は、福井県勝山市北谷の発掘現場とほぼ同じ時代の、白亜紀前期のコク・クルアト層です。
10年近い共同発掘の経験から、タイ側の準備も万端で、日本隊が到着する前に、すでに“島”は掘り出され、露出しています。すでに表面には化石が見えています。さあ、これから発掘調査の開始です。
ここ、ナコーン・ラチャシーマでは、恐竜化石の発掘調査の成果を受けて、ジオパークの認定を受けるために活発に活動しています。そして、世界ジオパークを目指しています。また、発掘現場も公開し、一般に広報・普及する予定で、多くの学生・生徒が訪れる予定です。
「学生たちの熱いまなざし」
今回のタイ発掘では、いつも嫌というほど感じている太陽の強烈な日差し以外に、学生たちの熱いまなざしをひしひしと感じる機会がありました。もちろん視線は私にではなく、化石に対してですが。
というのもタイのジオパーク認定に向けての活動を知ってもらうため、今年は、子供たちへの普及活動として恐竜化石発掘現場を公開し、多くの学生・児童が、恐竜発掘がどのように行われているかを見学することになっていました。今までのタイ発掘の中、子供たちが見学に来ることはありましたが、ここまで多く来たのは初めてではないかと思います。
なぜそこまで熱いまなざしを感じていたのかというと、恐竜化石の発掘現場を本当に間近で見学できるからではないかと思います。今まさに見つかった化石が、目の前に!どんどんと色々なことに興味がわいてきて、目が離せないといった学生もいたことでしょう。
昔は、ただただ発掘現場を見学するといった事だけでしたが、普及活動が色々と充実してきました。広報などの仕組みもしっかり整え、専任のスタッフを置いて対応しています。また現地では、子供たちにハンマーを持たせてみたり、実際に見つかった化石を紹介したり、発掘現場でのそれぞれの役割を流れを追って見学したり、恐竜がどこから見つかるのかを紹介したりと、発掘をダイレクトに感じ取ることができるようになっています。
日本ではこんなことが体験できるところはないの?という方もいらっしゃるかもしれません。野外恐竜博物館がありますよ!と宣伝したいですが、本稿はタイ発掘の話なのでそれは別の機会に。
タイでもこのように普及活動を盛んに行っています。実際の現場には、言葉で端的に表すことができない魅力がたくさんあります。ここで見た熱いまなざしを持っている人の中から将来の研究者が生まれるのかもなあと思うと、普及活動の大切さをひしひしと感じました。
「コラートの発掘と気候」
海外での恐竜化石の発掘というと、どんなイメージをお持ちでしょうか。きっと、草も生えない荒野でキャンプをしながら、ピックやハケを使って、巨大な全身骨格を少しずつ掘り出していく様子を想像する人も多いのではないでしょうか。
タイ国内でも、カラシン県にあるシリントーン博物館では(周りに草木は生えていますが)そんな発掘も行っているようですが、私たちがいるナコーン・ラチャシーマ県(コラート)の現場での発掘は、全く異なる方法でしています。
手順としては、まず前線でバックホーなどの重機を使って地層を1~2mほどのブロックで取り上げ、つぎにハンマー隊が小さくなるまで丹念に割っていき、中に隠れている化石を探し出すというものです(詳しくは2014年の記事を参照)。
「あれ、どこかで聞いたことあるような発掘方法だな」と思いませんか。じつは、福井県勝山市で行っている発掘調査とそっくりなんです。硬い地層の中に、化石がバラバラになって含まれているというコラートの状況がよく似ているため、調査の方法も自ずとそっくりになるという訳です。灼熱の太陽が照りつける中、レンガ色の地層に白く輝く化石を求めて、皆黙々とハンマーをふるいます。
灼熱の太陽と書きましたが、11月から2月にかけてはタイも日本と同じように冬の季節(寒季)で、タイ語では「ナーナーウ(寒い季節)」といいます。寒季といっても、半袖だと夜は寒いという程度です。この時期、コラートの夜は気温が15度近くまで下がるので、長袖や上着がないと確かに肌寒いです。ところが、ひとたび太陽が顔を出すと、じわじわと気温が上がり、昼前には30度以上に。最高気温が35度を超す日もあって、日なたにいると体感温度は40度近くになります。湿度はなくカラッとしていますが、日本の夏と同じかそれ以上の暑さで、立っているだけでも汗が噴き出します。
現場で働くタイのスタッフに「寒い季節というけれど、皆は暑くないのか」と聞いてみると、「もちろん暑いけど、この時期は夜が涼しくて、ぐっすり眠れるから問題ない」との返答でした。逆に暑季と呼ばれる3~5月は、夜でも30度を下回ることは少ないようで、昨年の4月(一番暑い時期)には昼間の最高気温が、なんと49度を記録した日もあったそうです。
寒季に発掘をするのは雨が少ないという理由もあるのですが、なぜ他の時期に発掘調査をしないのかということがよく分かった気がしました。