タイ恐竜発掘調査レポート2014

恐竜博物館はタイでの第4次恐竜化石共同発掘調査を行いました。タイ王国珪化木鉱物資源東北調査研究所(タイ王立ナコーン・ラチャシーマ・ラジャバット大学付属)との共同発掘調査で、2011年度2012年度2013年度に引き続く4ヶ年計画の最終年となります。

「今年度の発掘が始まりました。」

今年度のタイでの発掘が始まりました。発掘を行っているコラートでは10月から2月は寒期にあたるそうですが、今でも平均気温は30度ぐらいで日本の夏のような気温です。ただ湿気はないので、日かげは涼しく、休憩中はテントの下で涼むことができます。

今年の発掘が例年と一番違う点は、発掘するエリアが広いことでしょう。コラートに到着した日にタイの作業員が岩を露出させてくれた発掘予定の場所を見てびっくりしました。話を聞くと、いつも発掘の時に使っていた畑の間の道路が舗装されることになったために、道になる予定の場所が舗装される前に化石の入った岩をとりだして博物館に運ぼうということになったそうです。そのため、今年は二方面で同時に岩の取り出しを行うことになりました。一方では、岩を重機で取り上げられる大きさにした後に、通常どおりに取り上げた岩を大ハンマーで割り、さらに小さく小割をして化石を探していきます。もう一方では重機で取り上げた岩を、そのままトラックに載せて博物館に運んでいきます。

岩を持ち上げる重機は通常の1台でなく2台になっていますが、岩の位置の記録や、岩や化石の取り上げの指示もいつもの倍ちかく行うことになります。日本から来ている研究員の人数は例年と変わらないので、タイの人たちと共同作業で頑張るしかありません。タイ人の面々もこれまでの経験から発掘に慣れて、我々以上に的確に働きますし、恐竜博物館からも真面目に働く若い研究員が来ているので、なんとかなるに違いない!と、とりあえずはやってみながらペースをつかむつもりです。

執筆:久保 泰(12月22日掲載)

今年の発掘エリア

今年の発掘エリア。道路になる予定の場所が長く、広く、掘られています。

涼しいテントの下

涼しいテントの下。前にあるのはカノム・ヂーンと言うそうめんに似た麺類。

「前線でのお仕事」

発掘現場では大きく分けて、前線とハンマー隊との2つの部隊にわかれて作業を進めます。ここでは前線での仕事を紹介します。流れとしては、

①畑の表土を剥ぐ
②現れた島(※ここコラートの白亜紀前期の岩石は、島のように分かれた形をしてでてきます。)の周辺の土を取り除く
③島にナンバーをつけ、位置関係などを測量する
④島を重機で取り上げられる大きさにする
⑤島の割れ目を測量する(化石が見つかった場合は化石の位置も測量)
⑥割れた岩にスプレーでナンバーをつけ、ハンマー隊に持っていく

といったかたちです。①から③までを終えて初めて発掘の準備が整うのですが、②の作業はかなり体力を削られます。というのも島の周辺の土は重機では取り除けないため、すべて人の手で行うからです。暑い中、鍬やスコップのようなもので地道に取り除いていくのです。ただ今回は、私たちが来たときにはすでにそこまで終わっていました。タイチームの人たち「コップン マー カップ(本当にありがとう)」!! しかしなぜそこまでする必要があるかというと、重機で島を動かしやすくするといったこともあるのですが、化石が島の表面についているかを確認することや、島の側面を見ることによってこの岩石がどのように堆積していったかを確認することができるからなのです。これは恐竜化石がどのようにして化石になったかを知るうえで重要な情報になります。

さて表土を剥いで、島がきれいに現れると③の測量を行います。今回はいつもよりも発掘エリアが広いため、2班に分かれて測量を行いました。片方はタイチームリーダーのエイさん(女性)と私のタイ日共同チームで、もう一方はブーさん(男性)、ペーさん(女性)などオールタイチームです。測量の仕方は熟知しているので安心して任せることができます。島の位置関係を把握することも、発見された化石の位置や堆積構造の位置を記録する上で、とても重要な仕事の一つです。ただし③の作業をすべてやり終える前に、④から⑥の作業も始まってしまうため、前線も一息つく暇はありません。なぜならば早く石を割りたいという屈強な男たちが、ハンマー隊の方で無言のプレッシャー(石を持ってこい!)を放ってくるからです。

といってもみんなとてもいい笑顔。どれだけこわもての人でも笑顔で話しかけてくれて、いつもこちらが助けられています。5年前に初めてこの地に来ましたが、第二の故郷と思えるほどいい人ばかりです。こういった人たちに支えられながら発掘は進められていきます。

次はハンマー隊でのお仕事についてです。お楽しみに!

執筆:湯川 弘一(1月13日掲載)

測量をするオールタイチーム(右奥)

測量をするオールタイチーム(右奥)

島の陰で休憩をするタイチームの隊長エイさん

島の陰で休憩をするタイチームの隊長エイさん

前線での作業風景

前線での作業風景

ハンマー隊とレジスター

12月に入ると、発掘現場に吹く風がすこし涼しくなりました。朝晩は冷え込んで長袖がないと肌寒いほどです。タイでは12月が1年で最も寒い時期だそうですが、昼間の日射しの下では半袖でも汗をかく暑さです。

そんな中、人一倍汗をかきながら、大きな岩石と格闘している屈強な男たちがいます。大ハンマー隊です。前線から送り込まれた岩石は、島を小さく分割したものとはいえ、まだまだ巨大です。竹でできた柄をしならせ、大きく振りかぶった大ハンマーを何度も何度も、巨大な岩に打ち付けていきます。この作業、実際にやってみると数回やるだけで手と腕がひどく疲れるのですが、彼らはこれを一日中もくもくと続けます。しかも、石の目(地層の向き)を読んで、正確にハンマーを当てるので、地層に沿ってきれいにパカッと割れていきます。そうすることで大きな化石が入っていても、粉砕せずに発見することができ、結果として修復やクリーニングが容易になるのです。

大ハンマー隊によってある程度の大きさにまで割られた岩は、小ハンマー隊によって、こぶし大にまで小さくなります。小さくて貴重な化石を見逃さないためにも、とても大切な作業です。この小ハンマー隊は、老若男女を問わずに構成されています。やはり石は硬くて、なかなか割れないのですが、そこはさすが毎年の経験者たち。みるみるうちに石が小さくなっていきます。

次に、見つかった化石は、ひとつずつ仮番号をつけて登録し、リスト化していきます。この作業をレジスターと呼びますが、主にコラートの博物館スタッフによって行われます。現場でリスト化することで、標本の管理が容易になります。ここまで来れば、後は博物館へ運ばれるのを待つのみです。

涼しいと言っても、日本の夏と変わらない暑さの中、黙々と作業をこなすタイ人のスタッフたち。今年はいつもより調査する岩石量が多いのですが、彼らの働きのおかげもあり、何とか予定通りに調査を終えることができそうです。

執筆:薗田 哲平(1月15日掲載)

大ハンマー隊

大ハンマー隊。巨大な岩に乗って大ハンマーを振り下ろす。

小ハンマー隊

小ハンマー隊。炎天下にも関わらず黙々と石を割り、化石を探す。

レジスター作業

レジスター作業。どんな小さな化石でも全て確認して番号をつける。


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