長崎半島東海岸で発見された白亜紀の軟体動物(アンモナイト・二枚貝)化石について

2023年4月25日

長崎市東海岸に位置する茂木地区北浦町に分布する後期白亜紀の地層から、共同研究の結果、3種の海棲軟体動物化石を発見し、白亜紀の地層の年代について重要な資料と判明しました。この研究成果は日本地質学会の学術論文として発表され、化石は長崎市恐竜博物館で一般公開されます。

一般公開の資料

長崎市北浦町から産出した後期白亜紀の軟体動物化石3点

  • 岩石中のポリプチコセラス・オバタイ(異常巻きアンモナイト)
  • 岩石中のフィロセラス属類似の一種(アンモナイト)
  • プラチセラムス・ジャポニクス(二枚貝のイノセラムス類)

*展示される各資料は、図1中のカラー写真のものとなります。

化石の発見と研究の経緯

2011年4月17日~19日に実施した長崎市科学館と福井県立恐竜博物館による共同調査で、長崎市茂木地区北浦町の地層からハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜)の大腿骨化石が発見されました(2012年3月プレスリリース済*)。この時の調査で、近隣から軟体動物化石(アンモナイト、二枚貝、巻貝等のなかま)と思われる別個の岩石を収集しました。その後、長崎市恐竜博物館と福井県立恐竜博物館による共同研究で、収集された岩石のCT画像撮影や、周囲の岩石を取り除く作業が行われ、新たに3種の軟体動物化石の存在が明らかとなりました。さらに、北浦町では恐竜化石の見つかる陸上で形成された地層(河川の地層)と、軟体動物化石を含む海で形成された地層が断層で接していることも判明しました。

長崎県は白亜紀の地層の分布が少ないうえ、白亜紀の軟体動物化石は、長崎市産の恐竜化石よりもはるかに数少ない貴重な資料です。1962年の端島炭鉱(長崎市高島町の軍艦島)の坑内から発見された、1標本のイノセラムス類の化石(海棲二枚貝のイノセラムス属の1種。種名は不明)が長崎県では最初の白亜紀の軟体動物化石です(1963年論文報告)。1973年には北浦町から、2種類のアンモナイト類(分類学的な種は不明)と、1種類のイノセラムス類(カタセラムス・バルチクス)が発見されました(1979年学会で報告)。しかしながら、これら過去全ての軟体動物化石の詳しい研究はされておらず、化石の所蔵や保管も不明で、図も残されていません。したがって、過去の軟体動物化石は科学的な研究や検証は不可能なままで、一般が目にする機会もほぼ無かったのです。

図1長崎市北浦町の後期白亜紀の軟体動物化石

図1長崎市北浦町の後期白亜紀の軟体動物化石。上段列(10㎝のスケールバー):アンモナイトを含む岩石(カラー)と岩石中の様子(モノクロ:CT画像からの復元);左から順に、ポリプチコセラス・オバタイを含む岩石、その中の化石、フィロセラス属類似の一種を含む岩石(中央)と、その殻の一部を復元したもの(右)。下段列(2㎝のスケールバー):左より、ポリプチコセラス・オバタイ(CT画像での復元。緑は欠損部)、プラチセラムス・ジャポニクスのモノクロ画像(ホワイトニングでの撮影)とカラー画像。
画像提供:長崎市恐竜博物館・福井県立恐竜博物館

図2 ポリプチコセラス・オバタイ(左上)とプラチセラムス・ジャポニクス(右下)の生体復元図

図2 ポリプチコセラス・オバタイ(左上)とプラチセラムス・ジャポニクス(右下)の生体復元図
画像提供:長崎市恐竜博物館(作画:月本佳代美)

化石の特徴

発見された化石3種は、アンモナイト類2種とイノセラムス類1種です。アンモナイトでは、ポリプチコセラス・オバタイ(Polyptychoceras obatai)と、フィロセラス属に類似する1種(cf. Phylloceras sp.)と鑑定しました。ポリプチコセラス・オバタイは殻の巻きがほどけた、クリップのような形(異常巻きアンモナイトとも呼ばれる)で、化石の長さは約10㎝です。ポリプチコセラス・オバタイは北海道と熊本県の後期白亜紀の地層から知られ、時代(後期白亜紀のサントニアン期)を示す化石として知られています。フィロセラス属に類似したアンモナイトは、平面的な渦巻き状の殻をもち、完全であれば直径約20㎝です。これらアンモナイトの化石は殻が繊細で、岩石からは壊さずに取り出すことができません。岩石中のままCTデータをとり、3次元画像に復元して種類を特定しました。ポリプチコセラス・オバタイでは全体を、フィロセラス属に類似した種は、殻の装飾の一部を復元しました。イノセラムス類の化石はプラチセラムス・ジャポニクス(Platyceramus japonicus)と鑑定し、殻の長径は約6.3㎝です。この種も後期白亜紀の地層から知られ、特定の時代(後期白亜紀のカンパニアン期;サントニアン期の次の時代)の化石として知られています。

学術的意義

本共同研究で発見された海棲軟体動物化石は、学術的に検証可能な長崎の新しい資料というだけでなく、日本の白亜紀の地質時代を特定するうえで重要です。長崎のポリプチコセラス・オバタイとプラチセラムス・ジャポニクスは同じ地層で近接して発見されました。本来は同じ時期に生きていたと考えられておらず、今回の研究で同時代に生きていたことが初めて明らかとなりました(ポリプチコセラス・オバタイが相対的に古い時代とされていた)。富山大学(都市デザイン学部大藤 茂教授研究室)と名古屋大学の協力を得て、軟体動物化石を産した同じ地層から、砂粒の鉱物粒子(ジルコン)を使った年代の検証(U-Pb年代測定)も行い、今回の軟体動物化石の年代が、後期白亜紀のサントニアン期とカンパニアン期の境界付近(約8370万年前)のものと考えられます。

今回の軟体動物化石が発見された場所と、ハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜)の大腿骨化石(既出の2012年3月報告のもの)が発見された場所は近くですが、恐竜化石は河川でできた地層から産出したものであり、軟体動物化石の地層とは異なるより若い地層(後期白亜紀カンパニアン期のもの)と考えられます。これら研究の成果は日本地質学会が発行する学術雑誌の地質学雑誌(2023年3月31日オンライン公開)で公表されました。

地質学雑誌(J-STAGE公開)

表題
長崎半島東岸長崎市北浦町の上部白亜系層序の再定義とその地質年代学的意義
著者
宮田和周, 中田健太郎, 柴田正輝, 長田充弘, 永野裕二, 大藤茂, 中山健太朗, 安里開士, 中谷大輔, 小平 将大
URL
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/129/1/129_2022.0057/_article/-char/ja

一般公開

海棲軟体動物化石(実物)の展示
長崎市恐竜博物館オープンラボ(無料ゾーン):2023年4月18日㈫から
*茂木地区のハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜)の大腿骨化石は、既に常設展示室(有料ゾーン)で展示されています。

福井県立恐竜博物館
所在地:
〒911-8601 
福井県勝山市村岡町寺尾51-11
かつやま恐竜の森内
TEL:0779-88-0001(代表)
TEL:0779-88-0892(団体受付)

©2000 - Fukui Prefectural Dinosaur Museum.