日本初のティラノサウルス科の下顎骨化石について

2024年2月15日

概要

天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査により、熊本県天草郡苓北町の姫浦層群ひめのうらそうぐん下津深江層しもつふかえそう(後期白亜紀:約7400万年前)から、ティラノサウルス科(獣脚類:肉食恐竜)の部分的な下顎骨が発見されました(図1)。これまで国内のティラノサウルス科は、歯の化石のみから知られていましたが、今回のような顎の骨の発見は国内で初めてとなります。発見された化石はアジアのティラノサウルス科の時代と生息域の広がりや、後期白亜紀の大型獣脚類の分類と比較に役立つ重要な資料となります。

発見された化石

獣脚類ティラノサウルス科の左右の下顎骨(左および右の歯骨;GCM-VP750*)

  • 左歯骨(長さ約 14cm × 深さ約 8cm)
  • 右歯骨(長さ約 17cm × 深さ約 8cm)

*天草市立御所浦白亜紀資料館(GCM)の標本登録番号

図1 発見されたティラノサウルス科の下顎骨化石(GCM-VP750)

図1 発見されたティラノサウルス科の下顎骨化石(GCM-VP750)
部分的な左右の顎の骨(歯骨)が重なっており、図は左の歯骨を外側面から見たもの
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

図2 化石の発見地:熊本県天草郡苓北町(図中の丸印)

図2 化石の発見地:熊本県天草郡苓北町(図中の丸印)
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

化石の発見と研究の経緯

2014年(平成26年)10月、天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査において、熊本県天草郡苓北町の姫浦層群下津深江層を調査した際、骨を含む同層の転石を発見しました(図2)。後に化石のクリーニング作業を天草市立御所浦白亜紀資料館で行い、化石の内部を調べるために福井県立恐竜博物館などのCT装置を使用した調査を行った結果、ティラノサウルス科の下顎骨(左歯骨と右歯骨)と判明しました(図1と3)。

図3 左:左歯骨を外側面から見たもの;右:右歯骨を外側面から見たもの

図3 左:左歯骨を外側面から見たもの;右:右歯骨を外側面から見たもの。それぞれ重なる背景側の歯骨は半透明のマスクをかけている
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

図4 発見された化石のおよその位置(左右の歯骨はグレーの部位に相当)

図4 発見された化石のおよその位置(左右の歯骨はグレーの部位に相当)。頭骨のモデルはティラノサウルス科のゴルゴサウルス。歯骨は歯が植立する下顎骨の部分を指す
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

図5 CT画像から復元した左歯骨の内部

図5 CT画像から復元した左歯骨の内部 上:上面(歯のかみ合わせ側)から見たもの;下:外側面から見たもの。左歯骨のみを表示し、その歯骨と歯の一部は半透明化している。寒色系は植立した歯やその断片で、歯槽に長い歯根がある、その内側には2本の交換歯(黄)が見える。歯骨内部に保存の悪い部分(暗部)が横断する。
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

化石の特徴

恐竜の下顎骨は複数の骨から構成されますが、発見された化石は下顎骨の前半部にあたり、歯を収める歯槽がある「歯骨しこつ」と呼ばれる部位が主体となります(図4)。化石は左右の不完全な歯骨(いずれも前方と後方の部位は欠損)が重なり合って保存されています。CTによる観察で、左と右の歯骨に同じ部位(重複部分)は無いこと、双方の骨を併せて観察することで、この恐竜の歯骨の大部分が観察できることが判明しました。

これらの歯骨は頑丈で深いという特徴があります。左歯骨には4つの歯槽があり、歯冠(エナメル質が覆う部分)が破損した3本の歯と歯の断片が植立しています(図5)。左歯骨の歯槽内に2本の歯(交換歯)が形成されていることも確認できました。なお、右歯骨では5つの歯槽が見られ、歯は保存されていません。歯骨が深く頑丈であることに加え、歯は大きく水平断面がふくらみのある楕円形であることから、ティラノサウルス科の化石であると考えられます。

学術的意義

  1. ティラノサウルス科は後期白亜紀カンパニアン(約8360~7210万年前)とマーストリヒチアン(約7210~6600万年前)に限られて知られる大型獣脚類のグループで、アメリカとアジアで化石記録が報告されています。今回のような頭の一部となる化石の発見は、このグループが過去の日本にも生息していたことを再確認するもので、さらなる体の骨の発見も期待できることを示しています。
  2. 今回のティラノサウルス科の化石は、獣脚類の分類や比較研究に役立つ重要な標本と言えます。なお、日本の獣脚類の顎の化石は数例と極めて稀で、今回のものは国内最大の獣脚類の顎の化石です。
  3. これまで、ティラノサウルス科の化石は、国内においては歯の化石のみが知られていました。長崎県長崎市ではティラノサウルス科の大型種の歯の化石が、熊本県天草市天草町からも同科の歯の化石が発見され、これらは約8000万年前のものでした(図6;下記参考URLも参照)。今回の化石はそれらよりも若い、約7400万年前のものと思われます。アジアでは年代の分かるティラノサウルス科の化石は極めて少なく、このグループの時代と生息域の広がりを知る重要な資料とも言えます。
    なお過去には、ティラノサウルス科ではなく、「ティラノサウルス類」や「ティラノサウルス上科」として知られ、より原始的で古い時代の化石(歯など)が日本の各地から報告があります(前期白亜紀では石川県白山市、福井県大野市、兵庫県丹波市。後期白亜紀では北海道芦別市、岩手県久慈市、福島県広野町、熊本県御船町)。ティラノサウルス科が現れるまでの古い化石記録が、新たに日本から得られることも期待されています。

図6 日本のティラノサウルス科の化石産出地

図6 日本のティラノサウルス科の化石産出地
:過去の化石産出地(長崎県長崎市と熊本県天草市天草町) :今回の化石の産出地
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館/福井県立恐竜博物館

過去のプレスリリースの参考URL

熊本県天草市天草町のティラノサウルス科の歯
http://gcmuseum.ec-net.jp/topic-r3.html
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/research/2017amakusadino/
長崎県長崎市のティラノサウルス科の歯
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/research/202210Nagasaki/
https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/research/201507Nagasaki/

一般公開

下記の予定で化石(実物および複製)を一般公開します。

  • 天草市立御所浦恐竜の島博物館(天草市御所浦白亜紀資料館が3月20日にリニューアル予定)
    2024年3月20日(水・祝)から:常設展示で実物を展示。
  • 福井県立恐竜博物館
    2024年3月20日(水・祝)から:常設展示で複製を展示。

図7 ティラノサウルス科の獣脚類

図7 ティラノサウルス科の獣脚類
画像提供:天草市立御所浦白亜紀資料館(画:徳川広和)


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〒911-8601 
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TEL:0779-88-0001(代表)
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