福井県大野市から発見された日本最古級の哺乳類化石と哺乳類型爬虫類の新たな化石について

2021年2月7日

福井県大野市の手取層群 てとりそうぐん 伊月 いつき 層(前期白亜紀:約1億2700万年前)から、国内では最古級となる哺乳類の化石が発見されました。化石は3つの歯を伴う下顎骨の一部で、真三錐歯類 しんさんすいしるい というグループのものです。日本ではまだ知られていなかった恐竜時代の哺乳類であり、真三錐歯類としては4種目の発見となります。さらに現場の地層からは、トリティロドン類と呼ばれる哺乳類に似た爬虫類の歯の化石も発見されました(福井県では2例目の発見)。これらは福井県勝山市北谷の恐竜化石より数百万年以上も古い化石であり、日本の恐竜時代の陸生脊椎動物の多様性を知る重要な資料です。なお、詳しい研究成果は2021年2月7日の日本古生物学会で発表されました。

発見された化石

真三錐歯類(哺乳類)
三本の歯(頬歯)が植立した左下顎骨の一部。長さ13.1mm × 高さ5.8 mm
トリティロドン類(哺乳類型爬虫類 ほにゅうるいがたはちゅうるい
右下顎歯(頬歯)。長さ7.4 mm × 幅 4.7mm

学会発表

タイトル
「福井県大野市の手取層群伊月層から新発見の“三錐歯類”(哺乳類)化石とトリティロドン類(非哺乳類キノドン類)の新標本」
発表者(連名順)
宮田和周(福井県立恐博博物館 主任研究員)
酒井佑輔(大野市教育委員会文化財課 主任学芸員(古生物学))
中山健太朗(福井県立恐博博物館 主事(古生物研究職員))
中田健太郎(福井県立恐博博物館 研究員)
薗田哲平(福井県立恐博博物館 研究員)
長田充弘(日本原子力研究開発機構東濃地科学センター 博士研究員)
学会名
日本古生物学会第170回例会(Zoomによるオンライン開催)
学会告知URL:http://www.palaeo-soc-japan.jp/events/

研究の経緯

哺乳類の化石は、2019年に学会発表者の一人である酒井佑輔(大野市教育委員会文化財課)が、大野市荒島岳東方に分布する手取層群伊月層から発見しました。正確な化石の年代は不明ですが、過去の伊月層の年代測定の研究から、約1億2700万年前付近のものと考えられます。福井県立恐竜博物館が中心となって現地の追加調査を行い、同じ現場の伊月層からさらなる脊椎動物化石を得ました。その中には哺乳類型爬虫類であるトリティロドン類の歯の化石も含まれることが判明しました。トリティロドン類の歯については化石周囲の岩石を除去する剖出作業(化石クリーニング)が実施できましたが、哺乳類化石はその繊細さと保存が良好でないため、剖出作業は行えません。そこで恐竜博物館はマイクロフォーカスCTスキャナーで得られたデジタル画像を基に調査を進めてきました。

化石の発見と意義

日本最古級の哺乳類は真三錐歯類であり、日本の既報の種とは異なる

大野市の化石は、部分的な下顎骨に小臼歯型の歯1本と、大臼歯型の歯2本が植立しており、大臼歯型の歯には3つの大きな突起が前後に並ぶという特徴があります。その形状から大臼歯型の歯は「三錐歯」と呼ばれ、これは恐竜時代の原始的な哺乳類にみられる特徴の一つです。大野市の化石では中央の歯の突起が最も高く、その前後2つの突起は同程度に低く、さらに歯の前縁と後縁にも小さな突起が存在します。下顎骨の内側には「メッケル溝」と呼ばれる、爬虫類から哺乳類への進化段階に見られる原始的特徴の痕跡があります。これらの特徴から大野市の哺乳類は真三錐歯類(かつては“三錐歯類”とも呼ばれる)というグループのものと判断されました。真三錐歯類は恐竜時代の哺乳類の1グループです。

これまで国内では、3種の真三錐歯類の化石が報告されています。石川県白山市の「桑島化石壁」と呼ばれる崖に露出する手取層群桑島層から、アンフィレステス科の2種(ハクサノドン・アルカエウスと属種未定種)と、福井県勝山市北谷の恐竜化石発掘現場からトリコノドン科とみられる1種(属種未定種)が知られています。大野市の化石は部分的であるため、種の特定にはさらなる追加資料が必要ですが、歯の形状とその植立の位置から、既報の3種の真三錐歯類とは異なり、日本からはまだ報告の無い種であると判明しました。日本の恐竜時代の哺乳類の多様性を示す新たな資料と言えます。

福井県2例目のトリティロドン類の化石は石川県白山市のモンチリクタスに似る

トリティロドン類は「哺乳類型爬虫類」として知られる主に植物食の動物です(下記参照)。大野市の化石は4つの大きな突起がある下顎の歯で、突起は前に2つ、後に2つ並び、噛み合う面から見たそれぞれの突起は三日月型となる特徴があります。化石は右の下顎の歯(頬歯)ですが、化石に歯根は無く、エナメル質が覆う歯冠のみが保存されていることから、成長とともに抜け落ちた歯(脱落歯)と考えられます。2015年9月にトリティロドン類の切歯が大野市下山に分布する伊月層から発見されており、トリティロドン類の化石の発見は福井県では2例目となります。

国内初の発見であり、新種の学名もついたトリティロドン類の化石は、石川県白山市の手取層群桑島層から発見された「モンチリクタス・クワジマエンシス」とよばれるもので(異なる種名の提唱もある。下記参考参照)、多数の歯の化石から知られています。モンチリクタスには2つのタイプ(小型、大型)が知られていますが、大野市の化石は形状とサイズ共に、モンチリクタスの大型タイプに似ています。ほかにも、岐阜県高山市荘川の手取層群大黒谷層からもトリティロドン類の歯の化石の報告があります。この3県のみに知られる共に前期白亜紀の化石は、ジュラ紀以降に絶滅しつつあった哺乳類型爬虫類の生き残りが、北陸地方に広くいたことを示す重要な証拠となります。

大野市からさらに多くの貴重な化石が得られる可能性があり、桑島層の化石と同時期か、どちらかが古い

これまでに報告された日本最古の哺乳類化石は、石川県白山市の「桑島化石壁」の手取層群桑島層から発見されていました。2種の多丘歯類(テドリバータルとハクサノバータル:下記参考参照)と2種の真三錐歯類(ハクサノドンと属種未定種)の化石が見つかり、さらにトリティロドン類のモンチリクタスの化石も同じ現場の桑島層から発見されています。これら桑島層の化石は、その正確な年代が未だ不明です。過去の年代測定の研究では、約1億3000万年前(白亜紀前期バレミアン)よりは新しく、約1億2100万年以前(白亜紀前期アプチアン)よりは古いとする範囲でその古さが議論されています。

一方、北陸に広がる手取層群の地層の積み重なりの順序(「層序」とよばれる)と、類似する貝や植物の化石から、大野市の伊月層は桑島層とほぼ同時期の地層だと考えられています。伊月層の一部からは、1億2720万±250万年前(=約1億2700万年前:白亜紀前期バレミアン)という年代値が過去の研究で得られており、今回の化石はこの年代付近か、これよりもわずかに古い可能性があります。このように桑島層の哺乳類化石と今回の伊月層の哺乳類化石はどちらが古いのかは不明です。しかし、これらは福井県勝山市北谷で発掘をしている恐竜化石よりは古いものであることは確かです。

今回発表の化石は、桑島層に見られる哺乳類や哺乳類型爬虫類を含む脊椎動物化石の群集が、大野市の伊月層にも産することを示すものです。桑島層に類似した古い化石群集の資料が今後の伊月層の調査でさらに得られるとみられ、福井県では勝山市に加えて大野市も、日本の恐竜時代の脊椎動物の多様性を知るうえで非常に重要な場所となるでしょう。

参考

真三錐歯類 しんさんすいしるい

恐竜が栄える中生代に生きていた哺乳類の1グループです。古くは前期ジュラ紀の後期(約1億8000万年前)から化石が知られ、後期白亜紀(約8000万年前)には絶滅しています。 かつて、より原始的な古い種も含めて“三錐歯類”とも呼ばれていましたが、近年ではより原始的な種と区別して「真三錐歯類」と呼びます。北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米から化石が知られ、60を超える種が報告されています。やや大きな頭を持ち、顎の奥の歯(大臼歯型の歯)には3つの大きな突起が前後に並ぶのが基本的な特徴です。種類によってその突起の数や形状、歯の数などが異なります。多くはネズミほどの小さな体格で、昆虫などの小動物を食べる食性(昆虫食)ですが、なかには体長70cmを超えるものや、恐竜の子供を食べた種もいました。日本では石川県白山市の桑島化石壁に露出する手取層群桑島層からアンフィレステス科の2種(ハクサノドン・アルカエウスと属種未定種)、福井県勝山市北谷からはトリコノドン科と考えられる属種未定種が知られていました。

参考URL:「福井の恐竜時代の哺乳類化石論文公表について」(恐竜博物館の調査研究情報)

トリティロドン類

三畳紀後期に哺乳類が現れますが、哺乳類よりも原始的な特徴を残した、哺乳類の親戚に相当する動物です。爬虫類から哺乳類への進化段階にある、中間的な生き物とみられることから、「哺乳類型爬虫類 ほにゅうるいがたはちゅうるい 」とも呼ばれます。恐竜が現れる以前から「哺乳類型爬虫類」には様々なグループがいましたが、なかでもトリティロドン科は最後に現れた進歩的なグループで、最も遅れて絶滅しました(「哺乳類型爬虫類」は俗称であり、正式な分類名ではない。分類学的には獣弓目キノドン亜目トリティロドン科を指す。その科の動物をトリティロドン類と呼ぶ)。

トリティロドン類は上下の顎に長い切歯をもち、顎の奥には多数の突起がある歯が並びます。上顎の奥の歯には3列にならぶ複数の突起が、下顎の歯では2列に並ぶ突起があり、植物食に特化した動物と考えられています。北米、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南米、南極大陸からも化石が知れられ、約30の種が報告されています。三畳紀後期から化石の記録があり、ジュラ紀にかけて栄えていました。生態的に類似した哺乳類が栄えるため、白亜紀よりも前に絶滅したと考えられていましたが、ロシアのシベリアからはキセノクレトスクスが、石川県白山市からはモンチリクタスの化石が発見され、前期白亜紀にもトリティロドン類は生き残っていたことが明らかになり、恐竜時代の多様な生態系に関する重要な発見として話題になりました(後の研究で、これらの生き残りは共に、ステレオグナトゥス属の種とする論文がある)。

標本画像等

図1. 日本最古級の哺乳類(真三錐歯類)化石と哺乳類型爬虫類(トリティロドン類)の化石の発見現場

図1. 日本最古級の哺乳類(真三錐歯類)化石と哺乳類型爬虫類(トリティロドン類)の化石の発見現場。
福井県大野市の荒島岳東方に分布する伊月層から発見された。右の地図中のグレーは手取層群の分布を示す。
画像提供:福井県立恐竜博物館

図2. 福井県大野市の日本最古級の哺乳類化石

図2. 福井県大野市の日本最古級の哺乳類化石。国内4種目の真三錐歯類の化石となる。
左:割れた泥岩中の化石(左端にスケール)、右:左図の説明イラスト。
黒色部が露出した化石(大部分は泥岩の中)であり、前半部と後半部に分かれている。
割れた泥岩の表面に、それぞれ対になる骨の印象(窪み:グレーの部分)がある。左図上段の拡大画像は図3に掲載。
画像提供:福井県立恐竜博物館

図3. 福井県大野市から発見された真三錐歯類(日本最古級の哺乳類)の化石の一部

図3. 福井県大野市から発見された真三錐歯類(日本最古級の哺乳類)の化石の一部。
左下顎骨に植立する大臼歯型の歯が見える。
画像提供:福井県立恐竜博物館

図4. 発見された真三錐歯類の化石の三次元復元画像

図4. 発見された真三錐歯類の化石の三次元復元画像。
三本の歯が植立した左下顎骨で、CT画像から立体的に復元された。上段:頬側(外側)から見た化石。
左の歯が小臼歯型、中央と右が大臼歯型の歯。
下段:舌側(内側)から見た化石。下顎骨の底部付近に左から右へと延びる浅い溝がメッケル溝。
画像提供:福井県立恐竜博物館

図5. 日本最古級の哺乳類化石と同じ現場から発見された、トリティロドン類の右下顎骨の頬歯(合成)

図5. 日本最古級の哺乳類化石と同じ現場から発見された、トリティロドン類の右下顎骨の頬歯(合成)。
左:かみ合わせから見た4つの大きな突起(前後に2つずつ)。突起はそれぞれ三日月型。
右:頬側(外側)からみた歯。
画像提供:福井県立恐竜博物館

図6. 大野市の伊月層から発見された哺乳類(手前2体:真三錐歯類)とトリティロドン類(右奥:哺乳類型爬虫類)

図6. 大野市の伊月層から発見された哺乳類(手前2体:真三錐歯類)とトリティロドン類(右奥:哺乳類型爬虫類)。
画像提供:山本 匠


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