イベントのご案内

特別展講演会「地球最初の動物を求めて」

このイベントは終了しました。
特別展講演会「地球最初の動物を求めて」のイメージ
日時
7月16日㈰ 14時00分~15時30分
内容
私たちヒトを含むグループである「動物」はいつ誕生したのでしょうか。約6億年前のエディアカラ生物群の研究から、最初の動物の姿、そして動物誕生の背景となる地球環境の変化について紹介します。
講師
モナシュ大学地球科学教室 パトリシア・ヴィッカーズ‐リッチ 教授
場所
講堂
備考
特別展「恐竜以前 -エディアカラの不思議な生き物たち-」の関連行事です。
このイベントは終了しました。
Photograph of Speaker
パトリシア・ヴィッカーズ‐リッチ 博士  Prof. Patricia Vickers-Rich

オーストラリア国立モナシュ大学付属モナシュ科学館長。モナシュ大学教授。

1944年アメリカ生まれ、オーストラリア在住。コロンビア大学で博士号を取得。哺乳類、鳥や恐竜の化石を研究しており、近年生命の起源を探るため先カンブリア時代の生物も研究中。ゴンドワナ大陸の発掘成果においてナショナルジオグラフィックから賞をもらう。「サイエンス」誌をはじめとする科学雑誌に140編以上の論文を出版し、出版した本の功績として1992、1993、2001年にオーストラリアの名誉ある賞(ユークリア賞)を受賞した。モナシュ科学館の初代館長で教育普及プログラムにも携わっている。

イベントの様子

  • リッチ先生(左)と通訳をしていただいた京大の大野先生(右)。

    リッチ先生(左)と通訳をしていただいた京大の大野先生(右)。

  • エディアカラ生物の興味深い事実をたくさん話していただきました。

    エディアカラ生物の興味深い事実をたくさん話していただきました。

  • 家庭の日ということもあり多くの方に聴講していただきました。

    家庭の日ということもあり多くの方に聴講していただきました。

  • リッチ先生と大野先生の掛け合い風に楽しく進行いただきました。

    リッチ先生と大野先生の掛け合い風に楽しく進行いただきました。

講演レジュメ

The Origin of Animalia 地球最初の動物を求めて
"SALINE GIANTS," COLD CRADLES AND THE GLOBAL PLAYGROUNDS OF EARTH 冷たいゆりかご育ちで、世界中を遊び場にした“海の怪物たち”
Patricia Vickers-Rich パトリシア・ヴィッカーズ-リッチ
  1. 多細胞生物とは?
  2. 最古の動物の発見される場所
    • ニューファウンドランド(カナダ)
    • 白海地域(ロシア)
    • オーストラリア
    • ナミビア(アフリカ)
    • 南アフリカ
  3. カンブリアの大爆発
  4. 大型化石は真実を伝えているか?

参考資料

地球最初の動物を求めて
パトリシア・ヴィッカーズ‐リッチ博士
オーストラリア国立モナシュ大学 地球科学教室 教授
ロシア科学アカデミー 古生物学研究所 先カンブリア時代生物研究室 名誉研究員

エディアカラ生物群はとても不思議な生き物で、20世紀初頭から知られています。最初の発見は、一見荒涼とした場所であるナミビアで、地元民とそこに駐在するドイツの兵士たちによってなされました。しかし、レグ・スプリッグという若い地質学者が、南オーストラリアのフリンダースレンジにおいて鉱物資源を探査中に、彼が「クラゲ」と考えたものを発見したのみならず、エディアカラ生物群の特性と時代の古さを理解し、それを他人に納得させようと努力した最初の人物と言えます。彼の発見がアデレード大学のマーティン・グレスナーとマリー・ウェィドによって最初に広く世界に紹介されることにより、これらの不思議な生き物が注目されるようになりました。

「エディアカラ生物群」が一体何者なのか、研究者の間でも議論が続いています。それらは動物なのでしょうか?もし動物であるとするなら、カンブリア紀以降の(5億4200万年前よりも若い)地層中に見つかる化石と同じく、現在の生物と近縁なものが多いのでしょうか? それとも、カンブリア紀以降には子孫を残していない、「進化の袋小路」に入ってしまった生物なのでしょうか?この疑問は両方とも正しいようです。例えば、キンベレラ(Kimberella)は軟体動物(貝の仲間)の遠い祖先と考えられますが、ランゲア(Rangea)は子孫を残していないようです。

スプリッグがフリンダースレンジから発見した化石はかつて「多細胞動物」として分類されていました。例えば、円盤状の化石はクラゲの仲間だと考えられていたのです。メイソンはイギリス・イングランドのレスターシア州から「植物の葉のような形」が「円盤」にくっついている化石を発見し、これを藻類だと考えました。1959年に、グレスナーはこの化石をウミエラの仲間と再分類しました。しばらく後に、プフルークは、プテリディニウム(Pteridinium)やエルニエッタ(Ernietta)などのナミビア産化石の研究を通じて、エディアカラ生物群は海綿やサンゴのような動物ではないこと、複雑ではあるが単系統の、群体性の多細胞動物の1グループ(ペタロナマ類:Petalonamae)としてまとめられ、現在の生物とは全く異なる分類群と考えられることを提唱しました。ミハイル・フェドンキンはこの考えをさらに進めて、エディアカラ生物群は先カンブリア時代における多細胞動物の多様化を反映しているとし、幾つかの新たな分類群を提唱しました。これは、体の成長時の対称性に基づいて類縁関係を整理したものです。ザイラッハーは、ほとんど全てのエディアカラ紀(ベンド紀)の生物は、現在の動物とは異なる「生物界」、ベンドビオンタ界(Vendiobionta)に属するという考えを示しました。彼は後にこの考えを修正し、エディアカラ生物群の中には顕生累代(カンブリア紀から現在までを指す)に近縁な仲間がいるものもいる、としています。2004年に、ナルボンヌは、エディアカラ生物群の中には、「ランゲオモルフ」と呼ばれる、共通する独特の「体制(体のつくり)」を持つものがおり、ランゲオモルフの体制は先カンブリア時代以降には見られないと指摘しています。しかし、彼は、エディアカラ生物群の中にはこの体制を持たず、現在の生物群につながっていった生物が含まれる、とも考えています。ランゲオモルフ類は、先カンブリア時代後期には優勢だったが、カンブリア紀(5億4200万年前)以降には消えてしまった、「忘れ去られた様式」を持っていた生物と言えます。研究者の中には、ナルボンヌなどの見解に同意せず、エディアカラ生物群の中には菌類、あるいは地衣類すら含まれるとする者もいます。「エディアカラ生物群が一体何者であるか」という問いは議論の真っ直中にあり、エディアカラ生物群の正式な生物学的分類を行うことは時期尚早と言えるでしょう。

5億4200万年前頃に、多くの新しい動物のグループが化石記録に現れはじめます。これらの多くは、エディアカラ生物群とは異なり、硬い「から」(殻や骨格)を持っています。これらの、新しい体制や「から」の出現と同時に、先カンブリア時代には見られなかった行動、海底面を深く掘る動物も現れました。これは急激に起こったのではなく、一連の緩やかに進んだ出来事と考えられます。このような、2000万年以上もかかった、ゆっくりとした爆発(放散)をもたらした、きっかけは何だったのでしょうか?この問題についても、多くの説があり、科学雑誌上で活発な議論がなされています。ただ一つ確実に言えることは、カンブリア紀には、ほとんど全てのエディアカラ生物群がいなくなっているということです。

これらの疑問への回答は将来の課題として残されており、学際的研究、更なる野外調査、エディアカラ生物群の謎の化石を解読する新しい方法論などによって、解明が進むことが期待されます。この分野の研究は、国際的な協力体制の元に現在活発に進められているところです。

特別展講演会「地球最初の動物を求めて」
特別展講演会「地球最初の動物を求めて」

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