花粉・胞子化石試料の採集

岩石試料の採集
岩石試料の採集

恐竜発掘現場の北谷層からの花粉・胞子化石の論文が、8月1日発行の日本古生物学会英文誌 Paleontological Research(パレオントロジカル・リサーチ)に掲載されました。この論文は、フランス人のジュリアン・ルグラン氏らとの共同研究で、北谷層の花粉・胞子化石について初めて明らかにした研究成果です。今回のレポートでは、この研究の経緯と研究方法などについて簡単に述べたいと思います。

ルグラン氏は2006年4月にフランスの大学院博士課程の学生として来日し、東京の中央大学理工学部で研究を行いました。第三次発掘調査の始まった2007年の7月31日に花粉・胞子化石の分析用の試料を採集するため、発掘現場を訪れました。発掘現場ではフクイラプトルやフクイサウルスの見つかった層準に近いところの上下の4層準の泥岩層から、堆積物の岩石試料を採集しました。岩石試料は大学に持ち帰って分析しました。

花粉や胞子は岩石試料の表面をいくら顕微鏡で観察しても見つかるものではありません。まず、採集した試料をきれいに洗浄した後、含水させて潰し、ふるいにかけて大きな砂粒などを取り除きます。その後、塩酸をかけてカルシウム成分を溶かします。さらに、フッ化水素酸などの強酸に浸してシリカなどの珪酸塩成分を分解します。その後も酸などを使って試料を分解し、ふるいや遠心分離器を使って溶け残ったものを集めます。その中に花粉や胞子が残っているのです。花粉や胞子の内部は生きている細胞のためすぐ分解されますが、それらの外側の細胞壁は酸やアルカリにも溶けない物質でできています。そのため、そのまま長い年月地層中に残ることがあります。しかし場合によっては、地層が堆積した後の熱や圧力によっては花粉や胞子が分解されてしまうことがあり、そのような岩石からは、花粉や胞子は見つかりません。実際、北谷層以外の手取層群の地層からは、花粉・胞子化石はほとんど見つかっていませんでした。ルグラン氏によると、北谷層の花粉・胞子化石は比較的保存がよいそうです。

観察の結果、北谷層からシダ植物の胞子化石が53種類、裸子植物(ソテツ類や針葉樹類など)の花粉が22種類で合計75種類も見つかりました。この見つかった花粉・胞子化石から、北谷層の堆積した頃は、温暖で湿潤な環境であることを確かめられました。しかし一方で、一部に乾いた環境を好む植物の花粉や胞子も見つかりました。このことは一年中湿潤な環境から乾期を伴う環境へ変化しつつある途中の様子を表している可能性があります。ルグラン氏は今年6月にも発掘現場を訪れ、北谷層の様々な層準からの岩石試料を採集し始めました。この成果が出ることにより詳細な当時の環境や気候変遷が明らかになると思われます。今後の研究の発展が楽しみです。

花粉・胞子化石の顕微鏡写真
花粉・胞子化石の顕微鏡写真
北谷層の花粉・胞子化石の論文
北谷層の花粉・胞子化石の論文

(寺田和雄)

© 2013 Fukui Prefectural Dinosaur Museum.
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