勝山市の恐竜化石発掘現場から発見された新属新種のオルニトミモサウルス類について
福井県勝山市北谷町で発掘された恐竜化石には、オルニトミモサウルス類のものが含まれていることが知られていましたが、近年の発掘調査・研究の進展により、これが新属新種のものであると判明しました。日本で初めてのオルニトミモサウルス類の新種として、国際的学術誌「Scientific Reports」に掲載されましたので報告します。
研究の経緯
1998年の勝山市北谷町における第二次恐竜化石発掘調査以降、オルニトミモサウルス類とみられる骨化石が発見されていました(2013年6月記者発表)。しかし、種類を同定できる部位は発見されておらず、詳細は不明でした。ところが、2016年以降の第四次恐竜化石発掘調査で同類の化石がまとまって発見され(2019年3月記者発表)、研究を進めた結果、新属新種であることが明らかになりました。
この成果をまとめた論文が学術雑誌 「Scientific Reports」に受理され、2023年9月7日に公開されました。福井で発見された新種の恐竜(鳥類は含まない)としては6種目です。
新しく発見された恐竜について(図1〜3)
学名
- 学名
- Tyrannomimus fukuiensis
(日本語読み)ティラノミムス・フクイエンシス - 学名の意味
- 「福井産の暴君(ティラノ)もどき」
属名はティラノサウルス上科によく似た腸骨を持つことに由来するtyranno-(ティラノ:暴君)と、オルニトミモサウルス類に伝統的に付けられているmimus(ミムス:もどき)」合わせたもの。
種小名は、発見された場所である福井県のfukuiと場所を意味するensisとを合わせたもの。
分類・産地・時代
- 分類
- 獣脚類オルニトミモサウルス類デイノケイルス科
- 産地
- 北谷恐竜化石発掘現場(福井県勝山市北谷町)
- 時代
- 前期白亜紀
- 地層
- 手取層群北谷層 (約1億2000万年前)
発見部位(総数55点)※詳細は表1に記載
- 頭骨
- 前頭骨、脳函
- 脊椎
- 胴椎(7点)、仙椎(5点)、尾椎(2点)
- 前肢
- 上腕骨(3点)、指骨(5点)、末節骨(4点)
- 腰帯
- 腸骨(7点)
- 後肢
- 大腿骨(2点)、脛骨(3点)、中足骨(8点)、趾骨(5点)、末節骨(2点)
発見部位(総数55点)※詳細は表1に記載
上記の55点の化石は、1個体に由来するものではなく、若干大きさの異なる複数個体のものが混在しています。しかし、これまでティラノサウルスの仲間の特徴とされてきた腸骨の垂直稜や、既知のオルニトミモサウルス類には見られない上腕骨の小孔(図2)などが共通して見られることから、すべて同一種かつ新属新種であると判断しました。全体的に全長2メートル前後の個体のものですが、2メートル以上に成長した可能性もあります。
図1 ティラノミムスの生体復元模型
模型制作:荒木一成
図2 ティラノミムスの発見部位と骨格の主な特徴
図3 オルニトミモサウルス類の系統図
発掘 | 年 | 点数 | 部位 |
二次 | 1998 | 1 | 手の末節骨 |
三次 | 2008 | 2 | 手の末節骨(2) |
2009 | 2 | 指骨、中足骨 | |
2010 | 2 | 腸骨(2) | |
四次 | 2016 | 5 | 上腕骨*(2)、腸骨*、中足骨、趾骨(*は図2における図示標本) |
2017 | 12 | 脳函、胴椎(5)、仙椎、尾椎(2)、腸骨、大腿骨、脛骨 | |
2018 | 28 | 前頭骨、胴椎(2)、仙椎(4)、上腕骨、指骨(3)、手の末節骨、腸骨、大腿骨、脛骨(2)、中足骨(6)、趾骨(4)、足の末節骨(2) | |
2019 | 3 | 腸骨(2)、指骨 |
学術的意義
- 国内でのオルニトミモサウルス類の発見は少なく、頭骨など多くの部位は国内で初めて発見・報告されたものであり、新種としての報告も日本初です。
日本での発見例(福井県勝山市以外)- 群馬県神流町の山中層群瀬林層(前期白亜紀):脊椎の一部
- 熊本県御船町の御船層群上部層(後期白亜紀):尾椎と末節骨
- 学名の由来にもなっている腸骨の垂直稜は、これまでティラノサウルス上科の特徴と考えられてきましたが、今回の研究でティラノミムスをはじめとする一部のオルニトミモサウルス類にも見られる特徴であることがわかりました。
- ティラノミムスの腸骨は、ポルトガルのジュラ紀の地層(〜約1億5250万年前)から発見されたアヴィアティラニス(Aviatyrannis jurassica)に類似しています。アヴィアティラニスは、主に腸骨の特徴からティラノサウルス上科とされていましたが、ティラノミムスとの比較により、オルニトミモサウルス類である可能性が示されました。
オルニトミモサウルス類の最古記録は前期白亜紀(約1億4500万年前〜)とされてきたため、上記の発見はアヴィアティラニスが世界最古のオルニトミモサウルス類であるとともに、同グループの出現時期がこれまで考えられていたよりも700万年以上遡ることを意味します。
発表論文
- 論文題目
- New theropod dinosaur from the Lower Cretaceous of Japan provides critical implications for the early evolution of ornithomimosaurs
(日本の前期白亜紀の地層から産出した新たな獣脚類恐竜がオルニトミモサウルス類の初期進化の知見に重要な示唆を与える) - 著者
- 服部創紀・柴田正輝・河部壮一郎・今井拓哉・西 弘嗣・東 洋一
- 雑誌
- Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)
ネイチャー・リサーチ社によって刊行されているオンラインオープンアクセスの学術雑誌で、自然科学のすべての分野を網羅しています。
その他
オルニトミモサウルス類とは?
獣脚類コエルロサウルス類に分類される羽毛恐竜の一群で、原始的なものを除くと、デイノケイルス科とオルニトミムス科に分けられます。アジアやアメリカなどを中心に、数多くの化石が発見されています。最古記録はアフリカの前期白亜紀のものとされてきましたが、今回の研究ではヨーロッパの後期ジュラ紀になる可能性が示されました。
一般的に、小さな頭、長い首、細長い後肢など、ダチョウによく似た体型をしており、速く走ることが得意な恐竜として知られています。しかし、デイノケイルス科では大型化に伴い、走るのが不得意な体つきになっている例もあります。
日本の恐竜とその発表年(本発表を除く10種)
- 福井県
- フクイラプトル・キタダニエンシス(2000年)
フクイサウルス・テトリエンシス(2003年)
フクイティタン・ニッポネンシス(2010年)
コシサウルス・カツヤマ(2015年)
フクイベナートル・パラドクサス(2016年) - 石川県
- アルバロフォサウルス・ヤマグチオロウム(2009年)
- 兵庫県
- タンバティタニス・アミキティアエ(2014年)
ヤマトサウルス・イザナギイ(2021年) - 北海道
- カムイサウルス・ジャポニクス(2019年)
パラリテリジノサウルス・ジャポニクス(2022年)
展示
2023年9月9日㈯から恐竜博物館新館ホール3階で展示します。(展示期間は2024年1月9日㈫までを予定)