大野市の国内最古級(前期白亜紀)の新たなトカゲ類化石について
福井県大野市の荒島岳東方の手取層群伊月層(前期白亜紀:約1億2900万年前)から、国内では最古級となる新たなトカゲ類の化石(左上顎骨)が発見されました。伊月層からは既に上腕骨や脊椎骨などのトカゲ類の化石が2020年に報告されていますが、詳しい分類に役立つ頭部の骨の化石は初の産出です。研究の結果、この化石は国内のトカゲ類とは異なる特徴があり、ドリコサウルス科の未記載種と考えられます。日本の恐竜時代の陸生脊椎動物の多様性を知る重要な資料であり、その成果の一部は本年6月の日本古生物学会でも発表されました。
標本について
- 化石
- 左上顎骨1点 大きさ約 1.1cm
- 分類
- 有隣目ドリコサウルス科
- 産地
- 福井県大野市荒島岳東方
- 地層
- 手取層群伊月層
- 時代
- 前期白亜紀(約1億2900万年前)
- 特徴
- 骨の内側に歯を支える棚状の構造があること、歯はその顎の棚状の骨と接して植立する(側生性)ことから、トカゲ類の左上顎骨であると分かります。上顎骨は高さが低く前後に細長いことが特徴の一つで、顎に少なくとも13の歯列があり11本の歯が保存されています。前方から8本目までの歯は先端が後方に向かってゆるくカーブして鋭く尖ること、後方の2本は直線的で先端は鈍く、その表面に細かな縦筋が多数あることなどが特徴です。
研究の経緯
恐竜博物館と大野市は、2018年度から中部縦質自動車道大野油坂道路工事で排出される岩石中の化石や道路周辺地域の共同調査を進めており、その一環で 2019 年から荒島岳東方の手取層群伊月層で継続的に調査を実施しています。
伊月層からはイグアノドン類(鳥脚類恐竜)の歯化石や、国内最古級の哺乳類化石、哺乳類型爬虫類の化石が報告され、福井県最古の陸生脊椎動物化石群集が明らかになりつつあります(下記参考URL参照)。
2021年に収集した同じ場所の伊月層の岩石には多数の小さな脊椎動物化石が含まれており、その中で今回の標本が見つかりました。化石は非常に小さく繊細なため、マイクロフォーカスCTスキャナで得られた3Dデータを用いて観察し、研究を進めてきました。
参考 URL:https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/research/onomammal/
学術的意義
手取層群が分布する福井(勝山市・大野市)、石川(白山市)、岐阜(高山市)の各県から前期白亜紀のトカゲ類化石の報告があり、大野市のものは白山市や高山市に並ぶ国内最古級のトカゲ化石です。比較では、大黒谷層(高山市)のサクラサウルス、桑島層(白山市)のクワジマーラ、クロユリエラ、アサガオラセルタ、北谷層(勝山市)の未だ名前が付けられていないトカゲ類とは、上顎骨や歯の形態が大きく異なります。
一方で、桑島層の原始的なドリコサウルス科であるカガナイアスとは、高さが低く前後に細長い上顎骨という類似点がありますが、その上顎骨化石は部分的です。ドリコサウルス科の一種、イギリスのコニアサウルス(後期白亜紀)とは、上顎骨が上下に低く前後に長いこと、歯が前方から後方にかけて形態が変化することなどの類似点があります。
これらのことから、大野市のトカゲ類は少なくとも手取層群では未だ知られていなかった種であると考えられます。
ドリコサウルス科について(参考)
ドリコサウルス科は水生適応した小型のトカゲ類で、海生で大型化したモササウルスを含むモササウルス上科に近縁なグループです。ドリコサウルス科の多くはヘビのような細長い体型をしているのが大きな特徴です。ドリコサウルス科の化石の多くは後期白亜紀(約1億〜9400万年前)のヨーロッパや北アメリカから見つかっており、浅い海に生息していたと考えられています。石川県の桑島層から発見されたカガナイアスは、ドリコサウルス類では世界最古(前期白亜紀、約1億3000万年前)のものと考えられ、淡水または汽水域に生息していた種であり、カガナイアスとはほぼ同じ時期に生息していました。
大野市との共同調査研究について
恐竜博物館と大野市は、2015年11月に大野市から産出する化石の共同調査に関する協定書を締結し、共同で調査研究を実施してきました。2018年度からは、中部縦貫自動車道大野油坂道路の工事に関連した地質および化石の調査を本格的に開始し、トンネルや橋脚などの工事現場から排出される岩石から化石を収集するとともに、周辺地域での野外調査を実施しています。
2021年2月には、トカゲ類化石と同じ場所から発見された、国内では最古級となる哺乳類(真三錐歯類)とトリティロドン類の化石が発表されました。
また、2023年4月には、中部縦貫自動車道大野油坂道路の川合トンネル(仮称)の掘削現場から発見された、後期ジュラ紀の大型のアンモナイト化石2点が発表されました。
展示について
発見された化石は、下記のとおり展示公開します。実物化石は、入れ替えての展示となります。
- 期間
- 2025年8月5日(火)から11月3日(月)まで
- 場所
- 和泉郷土資料館(くずりゅう化石ラボガ・オーノ)1階
恐博物館本館1階クリーニング室横
※実物化石の展示期間
- 和泉郷土資料館
- 8月5日(火)〜9月23日(火)
- 恐竜博物館
- 9月25日(木)〜11月3日(月)
※実物化石が展示されていない期間は、化石の複製が展示されます。
参考画像等
図 1. 福井県大野市の手取層群伊月層から産出した岩石中のトカゲ類化石
図2.トカゲ類の左上顎骨化石のCT画像(上:外側、下:内側)