長崎市の新たな恐竜化石:国内最大級のハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜)の肩甲骨について

2021年7月12日

2017年(平成29年)10月に、長崎市と福井県立恐竜博物館は長崎半島西海岸の三ツ瀬層 みつせそう (後期白亜紀:約8100万年前)から大型の骨化石を発掘し、このたびその化石のクリーニングと復元作業が完了しました。化石はハドロサウルス上科(鳥脚類恐竜:植物食)の左肩甲骨で、国内最大級の鳥脚類恐竜のものとなります。

一般公開する資料

ハドロサウルス上科の左肩甲骨1点。長さ90cm × 幅20cm
化石は一部変形や破損があり展示での公開はされません。化石はほぼ全ての部位が保存されており、各部を接合して完全に復元された複製が展示されます。

図1 ハドロサウルス上科の左肩甲骨の化石と複製

図1 ハドロサウルス上科の左肩甲骨の化石と複製。
上段(黒背景):実物化石の内側。下段:肩甲骨の複製。上から内側、背側、外側。
画像提供:長崎市教育委員会/福井県立恐竜博物館

化石の発見と発掘の経緯

2016年5月、長崎市と福井県立恐竜博物館の共同調査において、長崎半島西海岸の三ツ瀬層の崖から骨の化石が露出していることを発見しました。翌年2017年10月に重機を用いた発掘を行い、さらに翌年の2018年から化石のクリーニングと修復・復元作業を開始しました。本年に作業は完了し、今回初めての公開となります。

図2 発見された肩甲骨の化石発掘

図2 発見された肩甲骨の化石発掘。
上段:骨の化石が一部露出している様子、下段:重機を使った発掘の様子。
画像提供:長崎市教育委員会/福井県立恐竜博物館

恐竜化石の特徴

発掘された骨は、体(胸郭)に沿う緩やかな湾曲、前縁(近位)に烏口骨との関節面、前縁下方部に上腕骨との関節面があり、後方(遠位)は薄く幅広い板状であることから左の肩甲骨と分かります。さらに、肩甲骨の前半部に弱いくびれがあり、長く伸びた後半部の幅とその広がり方から進化的なハドロサウルス上科の鳥脚類恐竜のものと判明しました。

ハドロサウルス上科は白亜紀に生息していた鳥脚類の代表的なグループで、日本最古のものは福井県から記録があります(コシサウルス:約1億2000万年前)。新しいものでは白亜紀末期の初期(約7200万年前)に、進化したハドロサウルス科の大型の種であるカムイサウルス(北海道)や、ヤマトサウルス(兵庫県)の記録があります。

今回の肩甲骨には、その近位部にある肩峰突起(背側の突起)がやや背側へ突出します。これは一部のハドロサウルス科と、ハドロサウルス科ではない進化的なハドロサウルス上科の種に見られる特徴です。今回報告する肩甲骨の特徴だけでは、恐竜の種を明らかにすることは困難ですが、進化的なハドロサウルス上科の種であることは間違いありません。肩甲骨の全体的な形は、中国の後期白亜紀のギルモレオサウルスのものに類似しますが、長崎の標本は2倍ほど長く、また日本のカムイサウルスの肩甲骨よりも長いことが分かりました。なお、カムイサウルスの肩甲骨は背側に凸となるように緩やかに湾曲し、今回の長崎の標本とは大きく異なります。

今回の長崎の化石は肩甲骨なのでヤマトサウルスとの直接の比較はできませんが、長崎の恐竜は骨の長さから全長約9mの個体と考えられ、日本で最大の鳥脚類であった可能性があります。

図3 ハドロサウルス上科の恐竜、エドモントサウルスの骨格参考図

図3 ハドロサウルス上科の恐竜、エドモントサウルスの骨格参考図。緑が左肩甲骨。
画像提供:長崎市教育委員会/福井県立恐竜博物館

学術的意義

  1. これまでの長崎の恐竜化石のなかでは、ほぼ完全な骨で、最大の大きさであり、ハドロサウルス上科のサイズや骨格に関する情報が得られました。長崎市のハドロサウルス上科の化石に関しては、長崎半島西海岸の野母崎地区から大腿骨の遠位部(=膝関節部;2010年報道発表)が、茂木地区北浦町からは大腿骨の上半部分(2011年発掘、2012年報道発表)が、さらに2013年からの継続的な共同調査で35点のハドロサウルス上科の歯の化石が見つかりました(2017年報道発表)。これらはこのグループの資料の豊富さが分かりますが、今回の肩甲骨は大きな個体のサイズ(全長約9m)について見積もりが得られます。日本の大きな鳥脚類恐竜(例えば、カムイサウルスやヤマトサウルス)と比較しても、最大級のものとなります。
  2. 長崎に後期白亜紀の恐竜が群れで生息する生態系があったと分かる追加資料であり、さらなる古生物資料の収集が期待できる。長崎ではハドロサウルス上科以外に、大型のティラノサウルス科、小型獣脚類、鎧竜、翼竜、カメ、ワニなど脊椎動物の化石が発見されています。これら約8100万年前(後期白亜紀)の化石は、西九州の恐竜時代の生態系復元に欠かせない資料であり、今後、アジアはもちろん、北米の恐竜との比較研究に役立ち、恐竜の進化と拡散について新たな情報が得られると考えられます。

図4 後期白亜紀のハドロサウルス上科の鳥脚類恐竜

図4 後期白亜紀のハドロサウルス上科の鳥脚類恐竜。
画像提供:長崎市教育委員会/福井県立恐竜博物館

一般公開

下記の予定で長崎市と福井県立恐竜博物館で化石の複製が展示されます。

長崎市役所(本庁) 2021年7月16日㈮ ~ 7月27日㈫
長崎市立図書館 2021年7月29日㈭ ~ 9月5日㈰
長崎市科学館 2021年9月10日㈮ ~ 10月31日㈰
福井県立恐竜博物館 2021年7月16日㈮ ~ 10月31日㈰(令和3年度特別展「海竜:恐竜時代の海の猛者たち」で複製を展示)

福井県立恐竜博物館
所在地:
〒911-8601 
福井県勝山市村岡町寺尾51-11
かつやま恐竜の森内
TEL:0779-88-0001(代表)
TEL:0779-88-0892(団体受付)

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